2009年5月23日

コラム「リバース・エンジニアリングの早期適法化を」を執筆、掲載した

勤め先(大和総研)のWebサイトに、「リバース・エンジニアリングの早期適法化を」というコラムを執筆し、昨日掲載した。興味のある方はどうぞ。

執筆しながらあらためて思ったこととして、文化庁のみが著作権法を管轄すること自体、見直す時期に来ているのだろうなと。

なお、小島肇さんの「セキュリティホール memo」では、著作権法改正案で新設されている第47条の7 (情報解析のための複製等) を「リバースエンジニアリングとかですかね。」としているが、この条文は別物である。ただし、これまでの議論の経緯を知っているがゆえに小島さんは早合点してしまったのだろう。あらためて、リバース・エンジニアリングの早期適法化を期待している。

2007年11月17日

地デジのB-CASカードを譲り受けて使用する行為についての一考察

地上デジタル放送等の受信機や録画機に必ず付属しているB-CASカードは、その契約上、B-CAS社が所有権を保持しているとされ、家族以外の他人に貸与または譲渡してはいけないことになっている。主な理由は、コピーコントロール等の対策が施されていない受信機(無反応機)等への転用を防ぐためである(B-CAS社は明言していないが)。他人への譲渡等は、単に契約違反というだけでなく、著作権法違反や不正競争防止法違反となる可能性もある。著作権法では、公衆に譲渡した場合等については刑事罰も設けられている(第120条の2第1項)。

では、個人的に放送を視聴、録画することを目的として、B-CASカードを譲り受け、不正な受信録画機を使用する行為についてはどうなのかということについて、AV機器評論家でMIAUの中心メンバーでもある小寺信良さんのブログでは以下のように言及されている。

おそらく販売者に対して放送事業者からなんらかの訴訟が行なわれるとは思うが、ちょっと心配なのは、購入者も著作権侵害で訴訟の対象になるのではないかという懸念である。著作権法30条2項に、私的使用のための複製の例外事項がある。

「二 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去 又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害 を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、 その事実を知りながら行う場合」

フリーオの購入者がこれにあたるのではないかという見方は、もしかしたらできるかもしれない。個人的には消費者が違法者として告訴されることは遺憾であるが、現時点では危ない橋を渡る者は、それ相応の覚悟がなければならない。

(小寺信良. "B-CASの問題点が早くも浮上 - コデラノブログ 3". 2007年11月8日.
下線強調は引用者による)

その条項は、30条2項ではなく、30条1項2号である。重箱の隅をつついているように思うかもしれないが、1項と2項とでは全然話が違ってくる。

著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第三項の規定により著作権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第五項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第四号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

(著作権法第119条第1項)

つまり、私的使用の複製である限り、30条1項に違反しても、刑事罰は科せられない。よって、小寺さんの言うような事由によって利用者が告訴されることはない。これは、ダウンロード違法化案(先日の記事を参照)が刑事罰の対象外となっているのと同じ話である。

ただし民事上は、フリーオは受信と同時にHDD(ハードディスクドライブ)にコピー無制限状態で録画するようであるから、フリーオの使用中止、廃棄やB-CASカードの返却などの差止請求(著作権法第112条)には応じなければならないと思う。ただし、地上デジタル放送の受信は(NHK 受信料を除いて)無料であるし、HDDは私的録音録画補償金制度の対象外だから、私的使用の範囲である限り、著作物に関する損害賠償は請求できないと思う(この点はダウンロード違法化とは違う)。

では、録画機能のない不正受信機が今後登場したとしよう。それを用いて単に放送を視聴するだけならば、技術的保護手段の回避にも当たらず、法律違反にもならないように見える。

現行制度上、技術的な保護技術については、著作権法と不正競争防止法により立法的措置がなされている。

 著作権法では、著作権等を侵害する行為の防止又は抑止をする手段として技術的保護手段が規定されている(第2条第1項第20号)。また、私的使用を目的とする複製であっても、技術的保護手段の回避により可能となった複製を行うことは権利制限の例外とされる(第30条第1項第2号)。さらに、技術的保護手段の回避のための専用機能を有する装置・プログラムを公衆に譲渡等を行い、又は、公衆の求めに応じて業として技術的保護手段の回避を行った場合には、刑事罰が科せられる(第120条の2)。

 したがって、現行著作権法では、コンテンツの無断複製を技術的に防ぐ手段(コピーコントロール)は技術的保護手段の対象となるが、放送のスクランブルなどコンテンツを暗号化し視聴を制限する手段(アクセスコントロール)は、視聴行為そのものはコンテンツの権利者に無断で行われたとしても「著作権等を侵害する行為」ではないので、技術的保護手段の対象外であると解されている。

 一方、不正競争防止法では、「営業上用いられている技術的制限手段」の効果を妨げる機能を有する専用装置・プログラムの譲渡等を「不正競争」と規定し (第2条第1項第10号、第11号)、同行為に対する差止請求や損害賠償請求など民事的救済を定めている(第3条、第4条)。
 不正競争防止法では、アクセスコントロール、コピーコントロールのいずれも「技術的制限手段」の対象となる。なお、この「不正競争」については、民事的救済は可能であるが、刑事罰の適用はない。

(文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会(第6回)議事録[資料2], 2005年7月28日)

つまり、著作権法では、複製とそれを防ぐコピーコントロールについては述べているものの、単に放送等を視聴する行為は著作権侵害には当たらず、視聴を制限するアクセスコントロールは技術的「保護」手段の対象外となる(ただしHDDレコーダなどに録画してしまったらアウトだが)。また、アクセスコントロールについては、不正競争防止法第2条第1項第10号、第11号に技術的「制限」手段についての条項があるのだが、こちらはあくまで手段を譲渡等する側を(刑事罰は設けずに)規制するものであって、私的使用する側には適用されない。

ダウンロード違法化の議論において文化庁が、YouTubeなどを念頭に「視聴のみを目的とするストリーミング配信サービス(例 投稿動画視聴サービス)については、一般にダウンロードを伴わないので検討の対象外である」という見解を示した背景も、このあたりにあるのだろう。複製を伴わず、単に視聴するだけであれば、それを取り締まる法律は存在しないことになる。

ただし、冒頭でも述べたように、契約上、B-CASカードはあくまでB-CAS社が所有権を保持しているとされ、それを他人に貸与、譲渡するのは禁止されている。そのB-CAS社との契約というのは、パッケージ開封時に自動的に成立するというシュリンクラップ契約である。そして、購入者から譲り受けた人とB-CAS社との間には、直接の契約関係は存在しない。

では、誰かから譲り受けたB-CASカードは、複製を伴わない視聴のみの私的使用でも、B-CAS社から求められれば返却しなければならないのだろうか?契約問題を知っていて譲り受ければ、悪意の占有者(民法第190条)となってしまい、返さないといけない?あるいは、購入者にろくに説明していないシュリンクラップ契約はそもそも無効だと主張する?

・・・素人なりにいろいろ調べてみたが、この辺が限界である。なお、B-CASカードを譲渡するのが契約違反だとは知らなかった(善意の占有者)と言い張れば、即時取得(民法第192条)となり、譲り受けた人は返却しなくてもよいかもしれない。ただし、このブログ記事をここまで読み進んでしまった方には使えない言い訳となる(苦笑)。

そのうち、多くのユーザが機器を買い換える(中古品が広く出回る)時期が訪れる。B-CAS社は「B-CASカスタマーセンターにご連絡いただきB-CASカードの返却をお願い致します」などと言っているが、消費者の混乱が容易に予想される。そもそも、コピーコントロールを意図したこのような仕組みを無料のデジタル放送に導入しているのは日本だけである。コピーワンスや「ダビング10」の件もそうだし、後先のことを考えていない地デジの受信機や録画機はしばらく買い控えるのが賢明だと、最後に一応付言しておく。

2007年11月11日

「ダウンロード違法化」について文化庁にパブコメしてみた

著作権について最近、著作権を侵害している違法サイトからのダウンロード行為を、私的使用のための複製 (著作権法第30条) の適用除外とする (違法とする) ことについて、様々な議論が展開されている。

その震源地である、文化庁の文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会の中間整理では、「第30条の適用を除外することが適当であるとする意見が大勢であった」と総括されている。そして、その中間整理について、先月から文化庁がパブリックコメント (意見公募手続) を実施している。パブコメ提出の締切は4日後 (2007年11月15日) である。

思うところがあって、以下のような短いパブコメを個人として提出してみた。

(1.~4. は、個人/団体の別、氏名、住所、連絡先を記載)

5. 該当ページおよび項目名:
104ページの「違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画」について

6. 意見:
ダウンロードの違法化は、権利者による損害賠償の二重取りを可能にしてしまう問題がある。現状でも、公衆送信した者に対しては、送受信の数量と著作物の販売額に応じた損害賠償請求が可能である(著作権法114条1項)。もしもダウンロードも違法化すれば、個々のダウンロードした者に対しても、著作物の販売額以上の損害賠償請求が可能となる(114条3項、4項)。権利行使の困難さについての議論以前の問題として、そもそもこのような立法は権利の過保護ではないか。

なお、ファイルローグ事件判決の記事 (Internet Watch) をあらためて確認すると、「販売額」は「使用料」としたほうが正確だったかもしれない (意見の主旨には影響しないが)。

以下、パブコメしてみた背景などについて述べる。

先の小委員会の中間整理においては、ダウンロード違法化は「情を知って」(違法録音録画物や違法サイトと承知の上で) 行う場合に限定されており、また、刑事罰は設けないとされている。利用者保護の観点からそうしているとのことである。

そうだとしてもダウンロード違法化には反対だという声がネット上では目立つ。しかし、先の小委員会では、IT・音楽ジャーナリストの津田大介さんが一人だけ反対論を唱えていた。中間整理には (少数意見として)、「違法対策としては、海賊版の作成や著作物等の送信可能化又は自動公衆送信の違法性を追求すれば十分であり、適法・違法の区別も難しい多様な情報が流通しているインターネットの状況を考えれば、ダウンロードまで違法とするのは行き過ぎであり、インターネット利用を萎縮させる懸念もあるなど、利用者保護の観点から反対だという意見があった。」と記載されている。また、ITMedia の記事「津田大介さんに聞く(前編):「ダウンロード違法化」のなぜ ユーザーへの影響は」「津田大介さんに聞く(後編):「ダウンロード違法」の動き、反対の声を届けるには」では、主張の詳細説明と同時に、パブリックコメントの重要性を津田さんは呼びかけていた。

こうした議論をきっかけに、ネット利用者の意見を集約して提言するための任意団体として、MIAU (Movements for Internet Active Users: インターネット先進ユーザーの会) が津田さんらを中心メンバーとして先月に設立されていた。そのMIAU によるパブコメ最終案に、おおよそ反対論は集約されている。MIAU はパブコメの概要を自動的に作成するプログラムまで公開しており、一般のネット利用者にもパブコメの提出を呼びかけている。

なので、反対論が出尽くしているようならば、いまさら無名の私ごときが何かを言うまでもないと思っていた。パブコメの自動作成プログラムなんぞ、同じ意見の焼き増しに過ぎず、多数決的な局面では意味があるかもしれないが、私は使う気になれない。だいたい、パブコメなんて今まで一度も出したことがない。今のところは MIAU とかに参加するつもりもない (興味はゼロではないが様子見、といったところ)。

ただし、その MIAU のパブコメ最終案を含め、ネット上の意見をいろいろ検索、閲覧してみても、損害賠償の二重取りの問題についてはほとんど誰も言及していない。スラッシュドットジャパンにおける IZUMI162i6 さんという方の書き込みを辛うじて見つけたくらいである。

著作権法第114条 (損害の額の推定等)には、すでに第1項で、違法な公衆送信におけるダウンロードの数量を元にした損害額の推定方法が規定されている。違法サイトの運営者等に損害賠償請求する際には、そうした推定が適用可能である。そのうえさらに、個々のダウンロードした者にも損害賠償請求を可能にするのは、権利の過保護ではないか。

懲罰的損害賠償として考えるなら、二重取りは問題ではないかもしれない。しかし、日本の法体系では、本来の損害額を超える損害賠償請求は認めないことになっている (はず)。文化審議会著作権分科会の別の小委員会 (司法救済制度小委員会) でも、懲罰的損害賠償について議論はしたが見送った模様である。

現状ではダウンロードした者の特定や「情を知って」の立証が難しいという主張もあるだろう。そうした主張は、「だから無益だ」という導出とともに、反対論からも聞こえてくる。しかし、将来にわたってずっとそうであるとも限らない。立法として、そうした権利行使の困難性を前提として二重取りの余地を残してしまうのはおかしいと思う。

・・・というようなことを、ほとんど誰も言及していない。私の考えがズレているのだろうか?正直言って、素人の私には分からない。でも、とりあえず言ってみることにした。そういう次第である。

2007年10月27日

金融商品取引法の広告規制についてのコラムを執筆、掲載した

勤め先(大和総研)のWebサイトに、「金融商品取引法がWebデザインに問いかけるもの」というコラムを執筆し、昨日掲載した。所属する部署(情報技術研究所)のコラムページが今月から立ち上がっていて、その第3回にあたる。興味のある方はどうぞ。

このコラムについては、ここで補足したいことがいろいろある。特に、野村證券グループのネット広告については、いろいろ言いたいことがある・・・が、しばらく自粛しておく。

ついでに、大和総研の従来のコラムページに掲載されている過去のコラムも以下リストアップしておく。よろしければどうぞ。

2007年6月19日

Google AdSense を導入する新聞社の免責主張は無責任な二枚舌

媒体責任についての最高裁判例

先月の記事では、このブログ (ココログフリー) の記事末尾に表示されるコンテンツ連動型広告 (Google AdSense) における虚偽・誇張の広告について、ニフティ、Google に問い合わせたが相次いでたらい回しされ、行政当局 (大阪府健康福祉部薬務課) に問い合わせたものの今のところ削除されていないという経緯を書いた。

そもそも、広告について、広告媒体 (テレビ、新聞や Web サイトなど) にはどのような責任があるとされているのか、Google AdSense についての最初の記事を書いて以来、ずっと気になっていた。調べてみたら、1989年 (平成元年) の最高裁判例があることを、主に以下の二つの文献から知った。

「日本コーポ分譲マンション事件」あるいは「日本コーポ広告事件」と呼ばれる当該の事件では、原告はマンション販売の新聞広告を見て日本コーポと購入契約を結んだが、その後日本コーポが倒産してしまい、マンションの引き渡しも内金の返金も受けられなかった。そうした被害を受けた原告が新聞社に損害賠償を請求したという裁判である。平成元年9月19日最高裁判決では、要点を抜粋すると以下のようなことが述べられている。(一文だけの引用なのだが長すぎるので改行を加えた。)

すなわち、元来新聞広告は取引について一つの情報を提供するものにすぎず、読者らが広告を見たことと当該広告に係る取引をすることとの間には必然的な関係があるということはできず、とりわけこのことは不動産の購買勧誘広告について顕著であって、広告掲載に当たり、広告内容の真実性をあらかじめ十分に調査確認した上でなければ、新聞紙上にその掲載をしてはならないとする一般的な法的義務が新聞社等にあるということはできないが
他方、新聞広告は、新聞紙上への掲載行為によって初めて実現されるものであり、広告に対する読者らの信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼とまったく無関係に存在するものではなく、広告媒体業務にも携わる新聞社並びに同社に広告の仲介・取り次ぎをする広告社としては、新聞広告のもつ影響力の大きさに照らし、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、または予見しえた場合には、真実性の調査確認をして、虚偽広告を読者らに提供してはならない義務があり、その限りにおいて新聞広告に対する読者らの信頼を保護する必要があると解すべきところ、
事実関係によれば、本件掲載等をした当時、被上告人らにおいて真実性の調査確認義務があるのにこれを怠って掲載等をしたものとはいえない。

(「日本コーポ広告事件」平成元年9月19日最高裁判決文を、疋田聰. "新聞広告における媒体責任について". 東洋大学 経営論集. Vol.51, 2000, 319-328. より2次引用、改行・強調は引用者による)

要は、新聞社等に広告掲載についての一般的な法的義務はなく、裁判所で媒体責任が認められるには何らかの特別な事情が必要らしい。特別な事情というのは、判決文にもあるように、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別な事情であって、さらに、虚偽・誇張の広告による読者の損害を予見しえた場合に法的義務があるということになる。また、先に挙げた弁護士の山元裕子さんの文献では、記事か広告か一見区別がつかない場合、媒体側が積極的に推奨している場合や、媒体が販売に関与している場合などでは媒体責任が認められる可能性があるとしている。このほか、タウン情報誌の広告に掲載した電話番号が間違えていたために間違い電話が第三者に多数かかってきた事件などでは、出版社の責任が裁判で認められたそうだ。

健康増進法の広告規制に対する新聞社の主張

新聞社側は、新聞広告における媒体責任について、たとえば健康増進法のガイドライン案に対する厚生労働省への意見書の中で、以下のように述べている。

改正健康増進法第32条の2により、「何人」にも虚偽誇大広告等を禁じていることを理由に、ガイドライン案は、「広告等を依頼した食品等の製造業者又は販売業者」と並べて、無条件で、当該広告等を掲載した新聞社に媒体責任を課している。これは明らかに、広告掲載についての媒体責任に関する諸判例、すなわち「広告の責任は広告主にある」との社会通念上も、また法的にも確定している原則に照らし、不適当であり削除すべきである。ことさら媒体責任に言及することにより、広告表現に対する過剰な規制が行われ、自由な広告表現が阻害されるおそれがある。

(中略)

新聞各社は、広告の責任は広告主にある、との原則に立ちながら、読者保護の観点から広告の審査業務を行っており、また広告の浄化を目的に新聞広告審査協会を設立して、広告の事前、事後調査、一般読者からの苦情相談などの体制を整えてきた。さらに新聞界は日本広告審査機構 (JARO)の設立に積極的に関わり、同機構は消費者からの広告に関する苦情、意見に対応している。ガイドライン案は、こうした関係業界の自主規制努力を顧みず、広告主企業である製造業者等と媒体を同列にとらえ、虚偽誇大広告の掲載責任を媒体に問うていることは、極めて問題であり、媒体責任に言及した個所は削除すべきである。

(社団法人日本新聞協会. "改正健康増進法のガイドライン案等に関する日本新聞協会広告委員会の意見". 2003年7月23日.)

社会通念上も法的にも、原則として広告掲載についての媒体責任はない、にもかかわらず任意で広告審査などの自主規制努力を払っているのだから、媒体責任を課すのはなおさら問題だ、そのように新聞社は主張している。

しかし、そうした新聞社側の主張を踏まえつつも、現在の当該ガイドラインは以下のようになっている。

1 広告依頼者の第一義的責任
 広告の掲載を依頼し、販売促進その他の利益を享受することとなる当該食品製造業者又は販売業者(以下「広告依頼者」という。)が、法第32条の2の規制の適用の対象者となるのは当然である。

2 同条と広告媒体との関係
 これに対し、広告依頼者から依頼を受けて、当該「広告その他の表示」を掲載する新聞、雑誌、テレビ、出版等の業務に携わる者は、依頼を受けて広告依頼者の責任により作成された「広告その他の表示」を掲載、放送等することから、直ちに同条の適用の対象者となるものではない。
 しかしながら、当該「広告その他の表示」の内容が虚偽誇大なものであることを予見し、又は容易に予見し得た場合等特別な事情がある場合においては、広告依頼者とともに同条の適用があり得る。

(厚生労働省医薬食品局長. "食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)に係る留意事項(平成15年8月29日食安基発第0829001号・食安監発第0829005号 最終改正平成17年6月1日)" (PDF形式))

ああ、なるほど、これは先述した「日本コーポ広告事件」最高裁判決を踏まえてアレンジした記述なのだ、と合点がいく。社会通念上も法的にも、これが妥当であろう。製造・販売業者と同列に媒体責任を課していたとされる当初の厚生労働省のガイドライン案も、媒体責任の記述を削除せよとする新聞社側の主張も、どちらも妥当性を欠くものである。そして、「諸判例」を根拠として挙げている新聞社に対しては、判例の一面的なつまみ食いをしていると言わざるを得ない。

Google AdSense を導入する新聞社が主張する「免責」は二枚舌

さて、ここまで調べ考えてみると、新聞の Web サイトに Google AdSense を導入することの不自然さに気づく。ほかでもない、新聞自体が広告媒体であるはずだからだ。ブログなどの一般の Web サイトとは、その導入の意味するところは根本的に異なるはずである。

しかし、発行部数6位までの新聞の Web サイトを確認してみると、YOMIURI ONLINE (読売新聞)、asahi.com (朝日新聞)、NIKKEI NET (日本経済新聞)、Sankei WEB (産経新聞) の4社が Google AdSense を導入している。なお、MSN毎日インタラクティブ (毎日新聞) は MSN (Microsoft) の広告システムを導入している。自前ですべての広告を審査、管理していそうなのは、CHUNICHI Web (中日新聞) だけである。

Google AdSense を導入している4社のうち、読売、朝日、日経の3社は、Google AdSense の上部に小さく表示される「Ads by Google」という文字をクリックすると開くウィンドウにおいて、新聞社の免責を以下のように主張している。

 この広告はGoogleによって提供される、コンテンツに連動した広告システムAdSense(アドセンス)です。

 これらの広告は、あらかじめ広告主が指定したキーワードを元にサイトの内容に対して関連のある広告を自動的に配信するものです。表示結果の内容は Googleの広告掲載基準や条件を満たしたものですが、一切の責任は広告主及びリンク先ウェブサイトの運営者にあります。読売新聞社は、その内容に一切 の責任を負いません。

 これらのGoogleの広告についてのお問い合わせ及び詳細はwww.google.co.jp/ads/をご覧下さい。

(YOMIURI ONLINE (読売新聞) にて「Ads by Google」をクリックすると開くウィンドウ より引用)

上記は読売の文面を引用したが、朝日の文面日経の文面も同様である。なお、産経の場合は、Google AdSense に固有の注意書きはなく、サイト全体の利用規約にて広告一般の免責条項が記されているのみである。産経よりは他の3社のほうが少しはマシかもしれないが、そもそも「Ads by Google」をクリックすると免責条項が現れることを、それこそ読者は「容易に予見し得」ない。結局、みんな同類である。

このように、新聞社は、一方で自主規制努力をアピールして広告表現の自由を維持しようとしておきながら、Google AdSense を導入して「Googleの広告掲載基準」に丸投げし、広告料を稼いでいる。「読者保護の観点から広告の審査業務を行っており」などと言ってなかったっけ?二枚舌ではないか?

新聞の信頼を新聞社自ら Google レベルにおとしめるのか

そもそも、「一切の責任を負いません」というのも不当ではないか?少々ブログ検索してみると、同様の疑問を呈している記事を、少ないながらも一つ見つけた。関西大学社会学部教授の水野由多加さんのブログ記事 So-net blog:千里一隅(旧・千里山一里):Ads by Googleのメディアビジネス がそれである。

一義的には、朝日新聞社に大きな問題がある。なぜならば「その広告を見る人はAsahi.comの広告を見ている」のであり、「記事に連動した内容の広告 が自動的に露出するから」、その受け手の意識の流れの利用について朝日新聞社が免責とは考えにくい。さらに朝日新聞社は、この広告掲出について(当然なが ら)広告対価を「受け取っている」のである。広告費の支払は受け取って、一切それが原因となるようなトラブルには免責とは、どのような論理なのだろうか。
しかし、ことはAds by Googleである。Ads by GoogleはAsahi.comに「上記のような取引を持ちかけた」のである。契約のもう一方の当事者としての倫理はどう考えるべきか。

(So-net blog:千里一隅(旧・千里山一里):Ads by Googleのメディアビジネス より引用)

当の Google は、設立への実績を新聞社が強調する日本広告審査機構 (JARO) には入会していない。広告の苦情に対する Google の姿勢を示す事例として、虚偽・誇張の広告について Google に問い合わせた際の定型文返信メールを、先月の記事に引き続き、ここに再掲する。

小川創生様

Google アドワーズ広告の広告主によるサービスの不具合に関し、ご連絡いただきありがとうございます。

アドワーズ広告プログラムでは、企業が自社のサービスの広告を掲載する場を提供しております。

弊社では顧客サービスを重視しており、広告主様にはユーザーに対する質の高いケアを期待しております。

しかしながら、弊社においてすべての企業の活動を監視できるわけではなく、またそのような責任も負っておりません。

お客様からのご連絡を受けまして、弊社ではこの広告主のアカウントを確認し不適切な点があるかどうかを調査いたします。

お客様におかれましてはその企業が所在している都市の公的機関等と連絡を取り、調査を依頼していただきますようお願い致します。

Google AdWords Team

本来は新聞社が広告を審査して掲載するはず (べき) で、読者も普通はそう認識している。なぜそれを、Google に丸投げするのだろうか。それは、「広告に対する読者らの信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼とまったく無関係に存在するものではなく」と認めてくれた最高裁判決と読者に対する裏切りであろう。

言うまでもないが、Google には、そのような読者 (利用者) の信頼はない。この論点において、Google は格付けの低いジャンクに過ぎない。

新聞社は、Google AdSense の導入をやめるか、さもなくば、広告審査等の自主規制努力を払っている (だから広告表現の自由を阻害するな) などという従来の主張をやめるべきである。どちらかしかないはずである。後者を選ぶならば、新聞社の信頼はそこいらの Web サイトと同レベルだということになる。

2007年5月26日

ココログフリーの自動挿入広告 (Google AdSense) の下に注意書きを自動挿入するスクリプト

以前の記事「薬事法・健康増進法逃れに利用される Google AdSense」にも書いたように、このブログサービス (ココログフリー) の記事の末尾には、Google AdSense と呼ばれる仕組みによって、自動的に広告が挿入されている。

その広告を改変、削除することは、ココログ(フリー)利用規約によって禁止されている。もちろん、その広告収入によってココログ (ニフティ) はココログフリーを無料で提供しているのだし、利用規約を承諾した上で利用しているのだから、広告の挿入自体に文句を言うわけにはいかない。

しかし、たとえば、冒頭に挙げた記事には以下のような広告が挿入されている。



(「薬事法・健康増進法逃れに利用される Google AdSense」末尾の広告を5月24日抜粋)

まあ、これを真に受ける人はいないと思うけど (笑)、一応以下指摘する。まず、「これ以上の」といった最上級の表現は、それだけで問題である。リンク先のページを見ても、最上級を裏付ける科学的根拠らしい情報の提示はない (あるわけがない)。また、「全額返金」などは虚偽であることが分かる (1箱目に限り「返品」は可能らしいが)。このような誇張・虚偽の表現を用いた広告は、健康増進法や景品表示法など関連法規に抵触しているはずである。

このような広告の表示について、ひとまず利用規約で認められる範囲内で対応すべく、広告の下に注意書きを自動挿入する対策を講じた。具体的には、ココログのメモリスト機能を使って、以下のようなスクリプト (JavaScript) を右側のサイドバーに埋め込んだ (画面には表示されない)。

<script type="text/javascript">
<!--

var message = '<div style="font-weight:bold;color:red;">(ブログ作者からのご注意)</div><span style="color:black;">この上に表示されている広告は、ブログ作者の意思に関わらず自動的に挿入されています。ブログサービス (ココログフリー) の利用契約上、ブログ作者は、サービスを無料で利用できる代わりに、これらの広告を改変、削除できません。関連法規やモラルを順守していない広告が表示されている可能性がありますので、ご注意ください。</span>';

function getFirstElementByClass(searchClass, rootElement, tagName) {
    if (searchClass == null) {
        return;
    }
    if (rootElement == null) {
        rootElement = document;
    }
    if (tagName == null) {
        tagName = "*";
    }
    var allElements = rootElement.getElementsByTagName(tagName);
    var returnElement = null;
    for (i = 0; i < allElements.length; i++) {
        if (allElements[i].className == searchClass) {
            returnElement = allElements[i];
            break;
        }
    }
    return returnElement;
}

function addMessage(element, message, valign) {
    if (element == null || message == null) {
        return;
    }
    if (valign == "top") {
        element.innerHTML = message + element.innerHTML;
    } else {
        element.innerHTML = element.innerHTML + message;
    }
}

function onLoadListener(e) {
    addMessage(getFirstElementByClass("entry-body-bottom", document, "div"), message);
}

if (window.addEventListener) {
    window.addEventListener("load", onLoadListener, false);
} else if (window.attachEvent) {
    window.attachEvent("onload", onLoadListener);
}

// -->
</script>

このスクリプトは、広告の下にある空の div タグ (クラス名 entry-body-bottom) に、変数 message の HTML 文を自動挿入するものである。データの読み込み終了後、たとえば以下のように表示されているはずである。

(「薬事法・健康増進法逃れに利用される Google AdSense」末尾の広告を5月25日抜粋)

ブラウザにおいてスクリプト (JavaScript) の機能を無効にしている場合、この注意書きは表示されないが、Google AdSense による広告の自動挿入も JavaScript を利用しているため表示されず、それはそれで構わないことになる。

このスクリプトは自由に利用していただいて構わない。そのままメモリスト機能へコピー&ペーストすれば動作する (と思う)。大したことはしていないので、HTML と JavaScript のスキルが少々あれば容易に読解、改変できるだろう。ココログフリー以外のブログサービスでも、スクリプトを少々改変すれば利用可能な場合もあるだろう。なお、利用方法についての問い合わせには原則として回答しないことをご了承願いたい。

スクリプト作成の背景

当初、ものは試しと思い、「これ以上の科学的根拠」広告について関係各所に削除を依頼していた。

まず、3月上旬に、ココログの問い合わせ窓口にて以下のように問い合わせてみた。

(途中まで省略)

このような誇張・虚偽の表現を用いた広告は、
健康増進法や景品表示法など関連法規に抵触しているはずですが、
Google の広告審査をすり抜けて表示されています。

このような広告表示は、私だけでなく、
ブログサービスを提供しているニフティ様の信用をも毀損しかねないと
考えております。

Google と直接の契約関係があれば、AdSense の管理機能によって、
個別の広告を指定してブロックする対策が可能です。
https://www.google.com/adsense/support/bin/answer.py?answer=9716
しかし、私はココログフリーの一利用者にとどまるため、
そうした対策はとれません。

つきましては、ニフティ様に、以下のいずれかの対策をお願いしたく存じます。
・ニフティ様の AdSense 管理機能によって当該違法広告をブロックする。
・ニフティ様から Google に対し、当該違法広告を審査で除外するよう要請する。

お手数ですが、よろしくお願いいたします。

期待はしていなかった。そうした管理の義務までココログ (ニフティ) が負っているとは思っていない。ココログよりも Google、さらには広告主自身の責任だろう。あくまで試しに問い合わせてみたという程度のものである。

返ってきたメールは、ほぼ予想通り、広告の掲載基準や内容についての指摘は Google へ直接連絡してくれ、という内容であった。

次に、Google AdSense ヘルプ センターの問い合わせ窓口にて同様の問い合わせをした。2日後に返ってきたメールには、「Googleアドワーズ広告は、事後承認システムによる即時掲載のプログラムのため、承認前の広告が一時的に表示されてしまうことがございます。」に続けて、「お客様のご指摘の広告につきまして確認させていただきますので、広告テキスト、表示URL等、広告の詳細情報をお送りくださいますようお願いいたします。」とあった。

広告テキストも表示URLも当然伝えていたので、応対用の定型文をそのまま返してきたのは丸わかりだった。そこは我慢して「詳細情報」をメールで送ったら、 (土日をはさんで) 4日後に返ってきたメールは以下のようなものだった。

小川創生様

Google アドワーズ広告の広告主によるサービスの不具合に関し、ご連絡いただきありがとうございます。

アドワーズ広告プログラムでは、企業が自社のサービスの広告を掲載する場を提供しております。

弊社では顧客サービスを重視しており、広告主様にはユーザーに対する質の高いケアを期待しております。

しかしながら、弊社においてすべての企業の活動を監視できるわけではなく、またそのような責任も負っておりません。

お客様からのご連絡を受けまして、弊社ではこの広告主のアカウントを確認し不適切な点があるかどうかを調査いたします。

お客様におかれましてはその企業が所在している都市の公的機関等と連絡を取り、調査を依頼していただきますようお願い致します。

Google AdWords Team

「不具合」だって (笑)。最近気づいたのだが、この文面はGoogle アドワーズ広告サポートのQ&Aとほとんど同じであった。しかし、いかんせんタイトルが「広告主によるサービスの不具合」うんぬんなので、どうやら当時は見逃していたようだ。英語の原文では "poor service" だから、そのまま訳すなら「劣悪なサービス」あたりが妥当だろう。こんなところで技術系のぼかし表現を使うとは。結局、定型文のコピーで2度もあしらわれてしまった。

それはさておき、「広告主によるサービス」や「すべての企業の活動」ではなく、広告の監視しか求めていないのに、Google は広告媒体としての責任を負うつもりはないということか。「調査いたします」とは言っているので一応しばらくの間様子を見ていたが、やはり当該広告は削除されなかった。

2度目のたらい回しだが、「その企業が所在している都市の公的機関等と連絡を取り、調査を依頼」せよと Google が言うので、当該広告主の所在地の大阪府健康福祉部薬務課医薬品流通グループ宛に、4月初旬にメールで連絡した。

「頂いた情報につきましては健康増進法、景品表示法担当部局に情報提供しました」という返事 (名前、所属、連絡先の署名付き) を2日後に頂いたものの、現在でも当該の広告は表示されている。対応の優先順位などの問題もあるだろうし、大阪府に対してあまりとやかく言うつもりはない。しかし、一般の市民ができることは、すでに一通りやり尽くしてしまった。

このように、ストレートに広告の削除を関係各所に要請しても、現状ではなかなか厳しいものがある。まして、一個人の利用者には、あれこれの広告にいちいち対応するのはほとんど無理であろう。

広告が自動挿入されない他のブログサービス (多くの場合は有料) に移転しようかとも考えた。しかし、面倒だし、少ないながらもリンクやブックマークがすでに張られている。広告以外の点についてはココログフリーをそれなりに気に入ってもいる。利用規約に触れない技術的対策を考えてこうして紹介するということにも一定の価値があるだろう。

あれこれ考え調べた結果、今回のような対策をひとまず講じておくことにしたという次第である。なお、自動挿入する注意書きの文面についてもあれこれ考えた。ニフティ (ココログフリー) のビジネスモデルに配慮し、「サービスを無料で利用できる代わりに」という文言をあえて加えた。「無料で利用しているくせに」「よそに行けばいいのに」と反射的に突っ込まれそうだが、そこはあえてそうした。それを言わないとフェアではないと思っている。

ところで、ココログフリーの Google AdSense について、ちょっと前までは「--- Ads by Google ---」と表示されていた。(リンクの色の違いはデザイン変更によるもので意味はない)

(「薬事法・健康増進法逃れに利用される Google AdSense」末尾の広告を3月9日抜粋)

それが、現在では「Sponsored Link」と表示されている。

(「薬事法・健康増進法逃れに利用される Google AdSense」末尾の広告を5月24日抜粋)

これは改悪であろう。Google AdSense を用いたココログフリーのビジネスモデルを、なぜ利用者に明示しようとしないのだろうか?あるいは、Google ではなくココログフリー (ニフティ) が広告について責任を負いますという意思表示なのだろうか?・・・たぶん違うだろう。

追記(2008年3月6日)

ココログフリー側の自動挿入広告の拡大に対応して、2008年3月にスクリプトを更新した。詳しくは「ココログフリーの自動挿入広告に対して注意書きを自動挿入するスクリプト Ver. 2」を参照。

2007年2月14日

薬事法関連の広告審査について Overture (Yahoo!) と Google を比較した

先の記事「薬事法・健康増進法逃れに利用される Google AdSense」では、コンテンツ連動型広告 (Google AdSense) あるいは検索連動型広告 (Google AdWords) におけるキーワードの登録について、薬事法などの法規に抵触していないかチェックする責任が広告主や Google にはあるだろうと述べた。これについては、Google だけではなく、Overture (Yahoo! 傘下) も同様のサービスを展開しており、同様の議論が当てはまる。検索連動型広告では Google よりも日本の市場占有率は上であり、Yahoo!、MSN、エキサイトなど、およそ Google 以外の主要な検索サービスに Overture が導入されている。そこで、両社の比較を試みた。

GoogleYahoo! JAPAN の検索サービスにおいて、成分名または疾患・症状名を検索キーワードとし、当該成分を含む健康食品の広告リンクが現れるかどうかをテストした。疾患・症状名から広告リンクが現れるようだと、薬事法関連の広告審査や自主規制が甘いのではということになる。一方、疾患・症状名からも成分名からも広告リンクが現れないようだと、そもそも広告が存在しないのではということになる。つまり、成分名では広告リンクが現れ、疾患・症状名では現れない場合、薬事法関連の審査や自主規制が機能している可能性が認められることになる。

なお、成分名、疾患・症状名の選出においては、日経BPの「闘う男の健康食品講座 時間をかけずに,必要な栄養成分を摂る!」というサイトを参考にした。このサイトは、サントリーの「取材協力」のもとで藤木理絵さんという記者が書いた記事広告である。成分の医薬品的な効能効果をあれこれ記述した上でサントリーの (医薬品等ではない) サプリメント商品を紹介し、記事の最後では販売サイトにリンクするという構成である。典型的なバイブル商法のネット版であり、薬事法に抵触していると考えている。(このサイトについて、これ以上の話はまた後日ということで。)

疾患・症状名で検索して広告リンクが表示された場合に絞って、テスト結果を表にしてまとめた。限られたキーワードを対象としており、広告リンクについても、(私の)見落としがあり得る上に時々刻々と広告主は変化するだろうことを踏まえて、ご覧頂きたい。

成分名
疾患・症状名
Google Yahoo! JAPAN
(Overture)
有無判定対象とした広告リンク
マカ 有り (多数有り) 有り (多数有り) ・サントリーのマカ
・サントリーのマカ冬虫夏草
不妊 有り (サントリーのみ) 無し
精力減退 有り (サントリーのみ) 無し
グルコサミン 有り (多数有り) 有り (多数有り) ・サントリーのグルコサミン
・辛い関節を何とかしたい方
(www.admate.jp)
・元気でアクティブな毎日を応援
(www.cgate.co.jp)
関節痛 有り (サントリー以外も有り、
「その他のスポンサー」に
サントリーが存在)
有り (サントリーは無し)
アントシアニン
(ブルーベリー)
有り (多数有り) 有り (多数有り) ・サントリーのブルーベリー
・ブルーベリーならサントリー
・サントリー 瞳の健康法
・目の疲れを感じたら!
(kokoro33.health-life.net)
・TVで紹介されました
(www.783793.com)
・甘酸っぱいおいしさで人気急上昇
(megu.vivian.jp)
・医者が選ぶサプリメントの通販
(www.ordersupli.com)
・パソコンなどよく使う方に
(www.ably.co.jp)
・朝日新聞で取り上げられた
(famima.foodpark.jp)
疲れ目 有り (サントリー以外も有り) 有り (サントリーは無し)
眼精疲労 有り (サントリー以外も有り) 有り (サントリーは無し)
ドライアイ 有り (サントリーは無し) 無し
肩こり 有り (サントリーは無し) 無し
DHA, EPA 有り (多数有り) 有り (多数有り) ・サントリーの「DHA&EPA」
血行不良 有り (サントリーのみ) 無し
甜茶 有り (多数有り) 有り (多数有り) ・話題の快適グッズはケンコーコム
(www.kenko.com)
花粉症 無し (ただし他の成分の
健康食品は有り)
有り (サントリーは無し)
ノコギリヤシ 有り (多数有り) 有り (多数有り) ・サントリーのノコギリヤシ
前立腺肥大症 有り (サントリーのみ) 無し
残尿感 有り (サントリーのみ) 無し
頻尿 有り (サントリーのみ) 無し
表: 成分名、疾患・症状名をキーワードとして Google、Yahoo! で検索した際の広告リンクの有無 (2月12日調査)
(注意) 疾患・症状に対する効能効果の真偽は考慮していない。

念のため、表に挙げた疾患・症状に対する効能効果が、各成分、各商品に本当にあるのかどうかは、ここでは考慮していない。医薬的な効能効果を標榜している時点で、真偽を問わず薬事法の規制の対象となる。薬事法以外の、たとえば健康増進法においては、虚偽・誇大かどうかが問われてくる。(そのうえでの参考として、国立研究・栄養研究所の「「健康食品」の安全性・有効性情報」によると、たとえばアントシアニンについては、「俗に、「視力回復によい」「動脈硬化や老化を防ぐ」「炎症を抑える」などといわれているが、ヒトでの有効性・安全性については、信頼できるデータが十分ではない。」としている。)

テスト結果を見る限り、どうやら、Yahoo! JAPAN (Overture) のほうが、薬事法関連の広告審査が厳しいように見える。

このことは、両者の規約等からも伺える。Overture においては、「掲載ガイドライン」という文書において、日本の薬事法による規制を明記している。

医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、健康食品など
医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器などの広告につきましては、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布することが法律により禁じられています。また、その効能効果について表現できる範囲が定められています。なお、公務所、学校、各種団体、医師などがこれらの医薬品などを指定、公認、推薦し、又は選用している旨などの広告も認められておりません。なお、健康食品、健康器具、美容器具、健康雑貨などについても、医薬的な効能効果を標榜した場合は、その規制対象となることがあります。所管官公庁が示す基準、考え方や具体的にどのような行為が違反とされているかについては、東京都福祉保険局健康安全室薬事監視課のホームページなどでご確認ください。
東京都福祉保険局健康安全室薬事監視課Webサイト
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/yakuji/kansi/cm/top.html
化粧品の効能効果の表現の範囲
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/yakuji/kansi/cm/cosme.pdf

(オーバーチュア株式会社 掲載ガイドライン(2006年12月)より引用)

一方、Google においては、「Google AdWords コンテンツ ポリシー」という文書において、かろうじて以下の一文が掲載されている。

妙薬
医薬品でないにもかかわらず効果効能を宣伝する広告は許可されません ("一晩でがんが治る" など)。

(Google AdWords: コンテンツ ポリシー (日本語に切り替え) より引用)

「妙薬」ってなんぞや? と思い、英語の原文を当たってみた。実は、「医薬品でないにもかかわらず効果効能を宣伝する広告」という表現は、日本の薬事法に沿った改訂であることが分かった。

Miracle Cures
Advertising is not permitted for the promotion of miracle cures, such as 'Cure cancer overnight!'

(Google AdWords: Content Policy (英語に切り替え) より引用)

「一晩でがんが治る」という例示がどうも極端だと思ったら、これはやはり「妙薬」の例示であった。Google なりの努力の跡は伺えるものの、いささか心もとない。

ただし、Google も日本の薬事法関連の広告審査をやっているそうだ (そりゃそうだ)。インターネット広告代理店の株式会社アイレップの記事「Google アドワーズの“審査”を再確認しよう」によると、登録キーワードと広告文の双方について、審査が行われているとのことである。検索連動型広告の Google AdWords では、まず、使用禁止キーワード (非公開) との自動照合を実施しているそうで、薬事法関連の使用禁止キーワードも用意されているとのことである。これに引っかかると、人間による事前審査に回されるそうである (引っかからなくても事後審査はある)。一方で、コンテンツ連動型広告の Google AdSense では、最初から人間による事前審査が行われるそうである。

一方、Overture では、検索連動型広告であっても、人間による事前審査が実施されているそうである。また、アイレップの別の記事「リスティング広告出稿における薬事法クリアのポイント」によると、少なくとも Overture の広告審査では、疾患・症状名のみならず、医薬的な効能効果を標榜する表現は実際に広告掲載お断りとなっているそうだ (Google でも、人間による審査は同様であろう)。

少なくとも、疾患・症状名をキーワードに登録することは、それだけで医薬品的な効能効果を標榜しているとみなされる。テスト結果では Yahoo! JAPAN (Overture) と比べて審査漏れの目立つ Google においても、成分名で検索した場合と比べて疾患・症状名で検索した場合の当該広告リンクは激減している。一定の審査あるいは自主規制が効いていることは十分に伺える。

とはいえ、いくつかの疾患・症状名で Google 検索してみると、サントリーの広告リンクの審査漏れは際だっている。他社が手を引いてしまうようなキーワードでも、サントリーだけが健康食品のリンク広告として表示されているという場合が Google では散見される。その理由として、そういう宣伝方針なのがサントリーのみであるという可能性のほかに、Google の審査をすり抜けやすい独自のノウハウやコネを持っているのかもしれない (あくまで想像だが)。

さて、本来こういうテストは、網羅的、定期的に実施するべきだろう。しかし、私一人ではとても手に負えそうもない (苦笑)。どこかの信頼できる公的機関がやってくれないだろうか?

2007年2月 3日

薬事法・健康増進法逃れに利用される Google AdSense

まず、「症状別サプリメント逆引き事典」というサイトの、不妊に悩む人にマカ等を勧めるページから抜粋した以下の画像を見てもらいたい。

不妊の悩み

(「不妊の悩みを解消したい:症状別サプリメント逆引き事典」の表示画面を1月28日抜粋)

不妊に悩む人にマカを勧めること自体はあくまで表現の自由の範ちゅうである。しかし、Web ページにおけるこのような状態は、健康食品の広告を規制する薬事法や健康増進法などの関連法規逃れではないか?というのがこのブログ記事の主旨である。

なにも該当事例はこのサイトだけではない。もうひとつ、Sankei WEB (産経新聞) のページから抜粋した以下の画像を見てもらいたい。(サントリーに注目)

産経新聞の画像

(「そろそろ季節… 花粉症グッズはそろってますか?|健康|生活・健康|Sankei WEB」の表示画面を1月30日抜粋)

花粉症に効くという科学的根拠がたとえあったとしても、単なる飲料やサプリメントである限り、このような状態は薬事法に抵触するのではないか?(この事例の場合、サントリーへのリンクのタイトルが「花粉の季節を乗切る準備を」となっているのは、サントリー単体でも問題があると思われる。) ただし、産経新聞の記事自体はあくまで表現の自由の範ちゅうであるというところに注意して欲しい。そこがこの話のポイントである。

なお、これらのサイトや広告リンクを事例として取り上げたことについては、分かりやすい事例をそこで見つけたという以上の他意はない。たとえば asahi.com (朝日新聞) や YOMIURI ONLINE (読売新聞) も Google AdSense を導入しており、健康食品会社等の PR をそのまま記事にした場合は同様の状態が発生する可能性がある。実際、さまざまなサイトでこうした事例は散見される。

Google AdSense

このブログ記事の末尾にも、広告リンクが「--- Ads by Google ---」として自動的に挿入されている。Web サイトの文章からキーワードを拾い出し、それに該当する広告リンクを表示するということを、Google が自動的に行っている。これを Google AdSense (グーグル アドセンス) と呼ぶ。広告主は、キーワードを指定し、キーワードの人気度に応じて Google に登録料 (オークションで決定) を支払っている。ココログの無料版 (ココログフリー) では、無料でブログサービスを提供する代わりに、Google AdSense をブログに挿入し、広告リンクのクリック回数に応じてニフティが Google から成果報酬を得るという構図となっている。ココログフリーのブログの作者 (たとえば私) は、その広告を改変・削除しないという利用条件に同意した上でココログフリーを無償利用している。

Google AdSense によってどんな広告リンクが表示されるのかは、表示されてみないと分からない。Web ページを更新すれば広告リンクも当然変化するし、何も Web ページを更新しなかったとしても、Google 側の広告主データベースが更新されれば、やはり広告リンクも変化する。そして、表示したくない広告を個別に指定して除外するといった管理も可能である。ただし、このココログフリーについて言えば、Google と直接契約しているココログ (ニフティ) にはそうした管理が可能であるものの、ブログの作者 (たとえば私) には不可能である。

あらためてネットサーフィンしてみると、新聞やブログに限らず、さまざまなサイトがすでに Google AdSense を導入していることが分かる。テレビにおける電通のような地位を、インターネットでは Google が占めそうな勢いである。

健康食品の広告と関連法規

さて、健康食品の広告や表示の法的規制については、法律の素人 (たとえば私) でも分かるように、東京都福祉保健局健康安全室のサイトで詳しく説明されており、関係資料も入手できる。薬事監視課監視指導係の「医薬品等の広告規制について(薬事法)」と健康安全課食品医薬品情報係の「「健康食品ナビ」 健康食品を取扱う際の確認ポイント」あたりを入り口として閲覧すると情報を探しやすい。

健康食品の広告や表示は、主に以下の法律によって規制されている。

  • 薬事法
  • 健康増進法
  • 景品表示法
  • 特定商取引法
  • 食品衛生法
  • JAS法

たとえば「不妊にはマカが効きます」と言うこと自体は表現の自由であるが、マカから製造したサプリメント (栄養補助食品であって、栄養「機能」食品ではないことに注意) などの商品広告において記載すると、不妊に効くと認められた医薬品、医薬部外品、特定保健用食品、栄養機能食品のいずれにも該当しないならば、薬事法第68条 (承認前の医薬品等の広告の禁止) に違反することになる。また、実際にマカが不妊に効くのかどうか、国立健康・栄養研究所では「健康な男性の性欲を改善することが示唆された」とする1文献しか把握していないようであり、もしも科学的根拠がないのならば、健康増進法第32条の2 (誇大表示の禁止) にも違反することになる。他社食品との差別化を図った誇大・虚偽の表示ということであれば、景品表示法第4条第1項第1号 (不当な表示の禁止) にも違反することになる。さらにインターネット上の通信販売の広告ならば特定商取引法第12条 (誇大広告等の禁止) にも違反することになる。

なお、「納豆の成分には体脂肪を減らすダイエット効果がある」という納豆の広告においては、納豆は明らかに食品と認識されるもの (「明らか食品」) なので、薬事法違反には該当しない。特定の納豆商品に限った広告というわけでなければ、景品表示法違反にも該当しない。しかし、納豆の成分が体脂肪を減らすという科学的根拠がないのならば、健康増進法に違反することになる。(2月20日訂正: 「通信販売の広告なら特定商取引法に違反することになる」と記述していたが、納豆は同法の指定商品の番号1「動物及び植物の加工品(一般の飲食の用に供されないものに限る。)であって」(以下略) に該当しないと考えられるため、記述を削除した。サプリメントであれば該当する。) なお、納豆ではなくイソフラボン・サプリメントであれば、薬事法違反にも該当する。

広告という形を取らず、書籍等における表現の自由を悪用しようとしているのが、いわゆるバイブル商法である。健康食品の効能、効果、体験談等をバイブル本として自由に書き立て、巻末等に販売業者の連絡先を記述しておくという手口である。これについては厚生労働省から関係団体あてに「書籍の体裁をとりながら、実質的に健康食品を販売促進するための誇大広告として機能することが予定されている出版物(いわゆるバイブル本)の健康増進法上の取扱いについて」という通知が2004年7月に出されており、悪質な業者には行政指導がなされている。これは、先に挙げた健康増進法第32条の2 (誇大表示の禁止) が2003年8月に施行されたのを受けてのものである (そもそも薬事法等にも違反しており、通知にもその旨記載されているのだが、なぜそれまで野放しに?)。

健康食品におけるリンクの法的規制

ただ、もうひとつ正確に把握しきれないのは、インターネット上のリンクについての法的規制である。

ひとまず以下の4通りの態様に分類してみる。

  1. Aが管理する、健康食品Xの販売サイト ⇒ Aが管理する、成分Pの効能・効果等の解説サイト
  2. Aが管理する、健康食品Xの販売サイト ⇒ Bが管理する、成分Pの効能・効果等の解説サイト
  3. Aが管理する、成分Pの効能・効果等の解説サイト ⇒ Aが管理する、健康食品Xの販売サイト
  4. Aが管理する、成分Pの効能・効果等の解説サイト ⇒ Bが管理する、健康食品Xの販売サイト

1と 3は、サイト管理者が共通であり、実質的には同一の態様である。販売サイトと解説サイトを一体とみなせる。

2は、たとえばイソフラボン・サプリメントの製造・販売業者が「発掘!あるある大事典II」の公式サイト (番組打ち切り発表とともに1月23日閉鎖) にリンクを張っていた場合が該当する。Aは製造・販売業者、健康食品Xはイソフラボン・サプリメント、Bは関西テレビ、成分Pはイソフラボンである。

4は、要するにバイブル商法のネット版である。

リンクについて言及している厚生労働省の文書としては、主に健康増進法に関する、「食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)に係る留意事項」(2005年6月最終改正) と「健康増進法上問題となるインターネット広告表示(例)」(2004年1月) を見つけた。ただし、これらの文書が言及しているのは1、3、4であり、2については言及されていない。また、薬事法など、他の法律について同じ条件をそのまま適用するのかどうかは定かではないが、そもそもの趣旨からして、ほぼ同様の条件なのではと推察する。

1と3については、議論の余地は小さいだろう。

2については、リンク先、たとえば「発掘!あるある大事典II」の公式サイトが直接に違法性を問われることはないと思われる。しかし、リンク元の製造・販売業者の片棒担ぎと見られるのを嫌ったのか、先の記事でも記したように、「あるある」の名前を使って商品を販売する業者と当番組とは一切関係ないとの「ご注意!」というポップアップが表示され、さらに、産業技術総合研究所の高木浩光さんのブログ記事「あるある大事典が「一切リンクお断り」としていた心境を推察すると見えてくるもの」にもあるように、「当HPへのリンクについては、一切お断りしておりますのでご了承ください。」と赤字で書かれていた。

もしかしたら、「あるある」は何らかの法的リスク (違法業者がリンクしたがる誇大・虚偽のサイト内容を放置することが民法上の不法行為と認定されてしまうとか) を恐れていたのかもしれない。Internet Archive によると、「リンク一切お断り」赤字表記が追加されたのは2004年8月頃、「ご注意!」ポップアップが追加されたのは2005年3月頃であり、健康増進法改正による規制強化後にそうした追加が施されたことになる。内容を改めるのが本筋のはずなのに。何かの免罪符のつもりだったのだろうが、「放送が国民に最大限に普及」「放送の不偏不党、真実及び自律を保障」というような原則を記した放送法の精神に「あるある」が背いていたのは、こうした Web 上の事象からも読み取れていた。

話を元に戻す。4 (バイブル商法のネット版) については、リンク元 (A) の解説サイトが以下の条件を満たすとき、厚生労働省は健康増進法違反と判断するそうだ。

  • 顧客を誘引する意図が明確にあること。
  • 特定食品の商品名等が明らかにされていること。
  • 一般人が認知できる状態であること。

そして、規制の適用を受けるのはリンク元 (A) で、執るべき是正措置はリンクの削除となる。販売サイトを管理するリンク先 (B) がリンク元 (A) にリンクを依頼していた場合は、当然リンク先 (B) も規制の適用を受ける。

「顧客を誘引する意図が明確にあること」を裏付ける Google AdWords

ここで、冒頭で挙げた画像をもう一度見てもらいたい。

産経新聞の画像

(「そろそろ季節… 花粉症グッズはそろってますか?|健康|生活・健康|Sankei WEB」の表示画面を1月30日抜粋)

先ほどの三つの条件が薬事法にそのまま適用されるのかどうかは分からないが、条件はすべて満たしているように見える。議論の余地が残されているとすれば、Google AdSense によるそうした自動的な表示に「顧客を誘引する意図が明確にある」かどうかであろう。

ただしこの事例において、広告主のサントリーには、Google AdSense を利用して「顧客を誘引する意図が明確にある」ようである。Google で「花粉」をキーワードにして検索した以下の画像を見てもらいたい。

Google にて「花粉」で検索

(Google で「花粉」をキーワードにして検索した表示画面を2月2日抜粋)

右側のスポンサー欄の上から3番目にサントリーの「甜茶」が表示される。なんと、その上下には、サッポロ飲料の「ホップ研究所」とアサヒ飲料の「べにふうき緑茶」も表示されている (苦笑)。当該の記事に出てくる「花粉症対策商品」のうち、ビール系飲料メーカー3社すべてが表示されていることになる。

そして、リンク先のサントリーとサッポロ飲料のサイトには、当然ながら花粉症に対する効能は記載されていない。自社サイトに直接書いてしまうと薬事法に抵触するからである。なお、アサヒ飲料の場合は、「花粉アシスト!」というれっきとした栄養機能食品とセットで緑茶を販売するという、つい感心 (笑) してしまうような手法である。

Google 検索において、このようなキーワードに連動した広告リンクを表示する機能を、Google AdWords (グーグル アドワーズ) と呼ぶ。Google AdSense と同様に、あらかじめ広告主がキーワードを指定し、オークションで決定した登録料を Google に支払っている。そして、偶然の要素を否定できない Google AdSense と違って、Google AdWords は100%意図を持った表示である。つまり、サントリーなどビール系飲料メーカー3社には、「花粉」というキーワードから自社サイトへ「顧客を誘引する意図が明確にある」ということになる。そして、Google AdWords においてその意図を確認できれば、Google AdSense における偶然の要素は否定される。「花粉」というキーワードが Web ページにあれば Google AdSense が自動的に広告リンクを表示することを、サントリーは明確に意図しているわけである。

ちなみに、「不妊」をキーワードにして検索してみると、「サントリーのマカ」が現れる。そんなばかな (笑)。どうも複数の商品で常態化しているようだ。

広告主、Google、Google AdSense を導入する Web サイト、それぞれにどのような責任があるのだろうか?キーワードの指定に関しては広告主の責任だし、Google にも広告代理店としてそれをチェックする責任があるだろう。では、Google AdSense を導入する Web サイトは?自社の広告では言えない事柄を、表現の自由が許される Google AdSense 付きマスメディアを利用して PR している場合は?・・・すでに長文になってしまったので、ひとまずこれくらいにしておく。

最後に、この下に表示されるであろう Google AdSense について、どんな広告リンクが表示されるのか、私には管理不能であることを念のため繰り返しておく。

追記

Google AdSense に関して、カテゴリー「広告」にその後の記事あり。

2006年9月16日

出所を明示せずにウィキペディアの記事を引用することの是非

私が寄稿したウィキペディア (Wikipedia) 日本語版の記事「SOA (サービス指向アーキテクチャ)」の一部分を、NTTデータ イントラマートのプレスリリースにて引用されていた。(寄稿の経緯などについては先日の記事で紹介したコラムを参照されたい)

(10月27日追記) この件について、NTTデータ イントラマートの経営企画室の方から謝罪のメールを頂きました。文末の追記もご覧ください。

現在の最新版の第1段落は以下の通りである。

ソフトウェア工学において、サービス指向アーキテクチャ(サービスしこうアーキテクチャ、Service-Oriented Architecture、SOA, 「エスオーエイ」あるいは「ソーア」と発音)とは、大規模なコンピュータ・システムを構築する際の概念あるいは手法の一つであり、業務上の一処理に相当するソフトウェアの機能をサービスと見立て、そのサービスをネットワーク上で連携させてシステムの全体を構築していくことを指す言葉である。業務処理の変化をシステムの変更に素早く反映させたいという需要に応えうるものとして、2004年頃からIT業界において注目を集めている。
Wikipediaの執筆者たち, "サービス指向アーキテクチャ", Wikipedia 日本語版, 2006年9月5日 22:04 (UTC).

私が寄稿した2005年の時点では以下の通りであり、ほとんど最新版と同一である (最新版では英語表記と読み仮名を追加してくれている)。

ソフトウェア工学において、サービス指向アーキテクチャ(SOA, 「エスオーエイ」あるいは「ソーア」と発音)とは、大規模なコンピュータ・システムを構築する際の概念あるいは手法の一つであり、業務上の一処理に相当するソフトウェアの機能をサービスと見立て、そのサービスをネットワーク上で連携させてシステムの全体を構築していくことを指す言葉である。業務処理の変化をシステムの変更に素早く反映させたいという需要に応えうるものとして、2004年頃からIT業界において注目を集めている。
小川創生 (利用者名「Sousei」), "サービス指向アーキテクチャ", Wikipedia 日本語版, 2005年12月1日 00:55 (JST).

そして・・・

SOAとは、業務上の一処理に相当するソフトウェアの機能をサービスと見立て、そのサービスをネットワーク上で連携させてシステムの全体を構築していくことを指す言葉であり、業務処理の変化をシステムの変更に素早く反映させたいという需要に応えうるものとして、2004年頃から注目を集めています。
株式会社NTTデータ イントラマート, "NTTデータ イントラマート、Webシステム構築ソフトウェアの新製品「intra-mart ver.6.0」をリリース", 2006年8月8日.
(10月27日追記) 現在は修正されています。文末の追記もご覧ください。

これは偶然あるいは不可避な一致ではなく、引用に該当するはずである。文書を引用して利用すること自体は自由である。しかし、このNTTデータ イントラマートによる引用については、厳密に言うならば以下の点が不公正と認識している。

  • 出所をどこにも明示していない (著作権法48条1項3号)。また、引用の範囲をカッコでくくるなどして明示しておらず、いずれも引用の公正な慣行に合致しない (著作権法32条1項)。
  • 語尾等を無断で一部改変している (著作権法20条1項)。

前者は著作権、後者は著作者人格権 (同一性保持権) の侵害となりうる。著作権者に該当する者としては、原著作者 (小川創生)、二次的著作物の著作者 (ウィキペディア財団、あるいは私の記事を修正してくれた人たち) が考えられるところ、引用された部分はすべて私の執筆した文章であるため、この件においては著作権も著作者人格権も私 (小川創生) が持っていることになる。

「ウィキペディアは不特定多数の人々が作成した記事を無料で公開しているのだから、著作権など存在しないのでは?」という疑問を持つ人もいるかもしれないが、それは誤りである。ウィキペディアでは、寄稿者も利用者も GNU Free Documentation License (GFDL) と呼ばれるライセンスに従う必要がある。GFDLでは、文書の共有とその自由な発展を恒久的に保証するために、寄稿者の権利に制限を課している。ただし、著作権自体を放棄しているわけではなく、あくまで寄稿者が著作権を保持することになっている。

「ウィキペディアの寄稿者って匿名だから、たとえ理論上は著作権や著作者人格権が存在したとしても、実際には権利を行使できないのでは?」と思う人もいるかもしれない。しかし、アカウントを作成して利用者ページ等で実名を明かしている寄稿者、たとえば私 (利用者:Sousei) の場合はどうだろうか。誰が寄稿したかという立証はそれほど難しくないはずである。たとえ現時点で実名を明かしていなくても、あとから明かすということもあり得る。より確実な方法でいくなら、法的に実名を登録することもできるはずである (著作権法75条)。そして、たとえ匿名 (無名) またはアカウント名 (変名) のままでも、寄稿者に代わってウィキペディア財団 (発行者) が権利を行使することもできる (著作権法118条1項)。あまり甘く見ないほうがいいと思う。

法的な問題から少々距離を置いた私の思いとしても、「ウィキペディアより引用」と一言付記してくれればいいのに、といったところである。語尾を「ですます」調に変えるくらいのことは全然構わない。そもそも、無償で利用されることを承知の上で寄稿しているのだから、引用どころか全文を転載されたとしても、それが悪用でない限りはむしろ歓迎すべきことだとさえ思う。しかし、元のNTTデータ イントラマートのプレスリリースはオープンソース・ソフトウェアに関するものであるだけに、このような問題については少々神経質になってしまう。無償でコンテンツを提供している人々に対して、最低限の敬意を払うべきだし、また、私も一利用者として払わなければならないと思っている。

参考までに、当該のウィキペディアの記事を適切に引用している例を二つほど見つけたので、以下挙げておく。

なお、「こういうことはブログに書かずに、直接NTTデータ イントラマートに言えばどうか?」と思った人もいるかもしれない。しかし、プレスリリースというのは、リリースされた時点で修正不能あるいは修正を請求する意味がない状態となる性質の文書だと思う ((10月27日追記) 元の Web ページは修正されています。文末の追記もご覧ください)。現に「日経プレスリリース」にもそのまま同じ日に転載されている。また、権利の侵害とはいっても具体的な損害はない (むしろブログのネタという利益を得ているかも)。権利者として何かを請求するのでないならば一般的な批判と同じである。そして、元の件から派生する一般的な注意喚起のほうを主に記したかったため、このブログでの掲載とした。批判の範囲を逸脱した名誉棄損などには該当しないよう注意を払った。

ちなみに、今回の件は引用であるから GFDL に関わらず利用できるが、利用の程度が転載に及ぶ場合は、(「フリー百科事典」という言葉からは一般の人が連想できないような) GFDL の制限が利用者にも課せられるので注意されたい。オープンソース・ソフトウェアに明るい人なら、GPL (GNU General Public License) と同種の厳しいライセンスだと言えば、それで通じてしまうだろう。しかし、そうしたライセンス形態に初めて接するのがウィキペディアだという人のほうが大多数だろうし、そうした意識の差は今後さまざまな形で顕在化していくかもしれない。

(追記 10月27日)

この件について、昨日 (10月26日) NTTデータ イントラマートの経営企画室の方から、謝罪のメールを頂きました。メールでは、不適切な引用の事実関係を認めて謝罪した上で、悪意はなかったこと、プレスリリースにおいて引用の有無を確認するプロセスが欠けていたこと、同社内の技術者がこのブログ記事に気づいて社内連絡したのが今回の対応のきっかけであることなどを伝えて頂きました。また、元のプレスリリースを掲載している同社の Web ページについては修正を施したとの報告を頂きました。

本文中にも記した通り、特に何かを同社に請求するつもりはなかっただけに、率直に言って、今回の同社の対応には驚くとともに感謝しています。同社の益々のご発展を祈願いたします。

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ブログ人登録 2008年03月15日