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2007年6月19日

Google AdSense を導入する新聞社の免責主張は無責任な二枚舌

媒体責任についての最高裁判例

先月の記事では、このブログ (ココログフリー) の記事末尾に表示されるコンテンツ連動型広告 (Google AdSense) における虚偽・誇張の広告について、ニフティ、Google に問い合わせたが相次いでたらい回しされ、行政当局 (大阪府健康福祉部薬務課) に問い合わせたものの今のところ削除されていないという経緯を書いた。

そもそも、広告について、広告媒体 (テレビ、新聞や Web サイトなど) にはどのような責任があるとされているのか、Google AdSense についての最初の記事を書いて以来、ずっと気になっていた。調べてみたら、1989年 (平成元年) の最高裁判例があることを、主に以下の二つの文献から知った。

「日本コーポ分譲マンション事件」あるいは「日本コーポ広告事件」と呼ばれる当該の事件では、原告はマンション販売の新聞広告を見て日本コーポと購入契約を結んだが、その後日本コーポが倒産してしまい、マンションの引き渡しも内金の返金も受けられなかった。そうした被害を受けた原告が新聞社に損害賠償を請求したという裁判である。平成元年9月19日最高裁判決では、要点を抜粋すると以下のようなことが述べられている。(一文だけの引用なのだが長すぎるので改行を加えた。)

すなわち、元来新聞広告は取引について一つの情報を提供するものにすぎず、読者らが広告を見たことと当該広告に係る取引をすることとの間には必然的な関係があるということはできず、とりわけこのことは不動産の購買勧誘広告について顕著であって、広告掲載に当たり、広告内容の真実性をあらかじめ十分に調査確認した上でなければ、新聞紙上にその掲載をしてはならないとする一般的な法的義務が新聞社等にあるということはできないが
他方、新聞広告は、新聞紙上への掲載行為によって初めて実現されるものであり、広告に対する読者らの信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼とまったく無関係に存在するものではなく、広告媒体業務にも携わる新聞社並びに同社に広告の仲介・取り次ぎをする広告社としては、新聞広告のもつ影響力の大きさに照らし、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、または予見しえた場合には、真実性の調査確認をして、虚偽広告を読者らに提供してはならない義務があり、その限りにおいて新聞広告に対する読者らの信頼を保護する必要があると解すべきところ、
事実関係によれば、本件掲載等をした当時、被上告人らにおいて真実性の調査確認義務があるのにこれを怠って掲載等をしたものとはいえない。

(「日本コーポ広告事件」平成元年9月19日最高裁判決文を、疋田聰. "新聞広告における媒体責任について". 東洋大学 経営論集. Vol.51, 2000, 319-328. より2次引用、改行・強調は引用者による)

要は、新聞社等に広告掲載についての一般的な法的義務はなく、裁判所で媒体責任が認められるには何らかの特別な事情が必要らしい。特別な事情というのは、判決文にもあるように、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別な事情であって、さらに、虚偽・誇張の広告による読者の損害を予見しえた場合に法的義務があるということになる。また、先に挙げた弁護士の山元裕子さんの文献では、記事か広告か一見区別がつかない場合、媒体側が積極的に推奨している場合や、媒体が販売に関与している場合などでは媒体責任が認められる可能性があるとしている。このほか、タウン情報誌の広告に掲載した電話番号が間違えていたために間違い電話が第三者に多数かかってきた事件などでは、出版社の責任が裁判で認められたそうだ。

健康増進法の広告規制に対する新聞社の主張

新聞社側は、新聞広告における媒体責任について、たとえば健康増進法のガイドライン案に対する厚生労働省への意見書の中で、以下のように述べている。

改正健康増進法第32条の2により、「何人」にも虚偽誇大広告等を禁じていることを理由に、ガイドライン案は、「広告等を依頼した食品等の製造業者又は販売業者」と並べて、無条件で、当該広告等を掲載した新聞社に媒体責任を課している。これは明らかに、広告掲載についての媒体責任に関する諸判例、すなわち「広告の責任は広告主にある」との社会通念上も、また法的にも確定している原則に照らし、不適当であり削除すべきである。ことさら媒体責任に言及することにより、広告表現に対する過剰な規制が行われ、自由な広告表現が阻害されるおそれがある。

(中略)

新聞各社は、広告の責任は広告主にある、との原則に立ちながら、読者保護の観点から広告の審査業務を行っており、また広告の浄化を目的に新聞広告審査協会を設立して、広告の事前、事後調査、一般読者からの苦情相談などの体制を整えてきた。さらに新聞界は日本広告審査機構 (JARO)の設立に積極的に関わり、同機構は消費者からの広告に関する苦情、意見に対応している。ガイドライン案は、こうした関係業界の自主規制努力を顧みず、広告主企業である製造業者等と媒体を同列にとらえ、虚偽誇大広告の掲載責任を媒体に問うていることは、極めて問題であり、媒体責任に言及した個所は削除すべきである。

(社団法人日本新聞協会. "改正健康増進法のガイドライン案等に関する日本新聞協会広告委員会の意見". 2003年7月23日.)

社会通念上も法的にも、原則として広告掲載についての媒体責任はない、にもかかわらず任意で広告審査などの自主規制努力を払っているのだから、媒体責任を課すのはなおさら問題だ、そのように新聞社は主張している。

しかし、そうした新聞社側の主張を踏まえつつも、現在の当該ガイドラインは以下のようになっている。

1 広告依頼者の第一義的責任
 広告の掲載を依頼し、販売促進その他の利益を享受することとなる当該食品製造業者又は販売業者(以下「広告依頼者」という。)が、法第32条の2の規制の適用の対象者となるのは当然である。

2 同条と広告媒体との関係
 これに対し、広告依頼者から依頼を受けて、当該「広告その他の表示」を掲載する新聞、雑誌、テレビ、出版等の業務に携わる者は、依頼を受けて広告依頼者の責任により作成された「広告その他の表示」を掲載、放送等することから、直ちに同条の適用の対象者となるものではない。
 しかしながら、当該「広告その他の表示」の内容が虚偽誇大なものであることを予見し、又は容易に予見し得た場合等特別な事情がある場合においては、広告依頼者とともに同条の適用があり得る。

(厚生労働省医薬食品局長. "食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)に係る留意事項(平成15年8月29日食安基発第0829001号・食安監発第0829005号 最終改正平成17年6月1日)" (PDF形式))

ああ、なるほど、これは先述した「日本コーポ広告事件」最高裁判決を踏まえてアレンジした記述なのだ、と合点がいく。社会通念上も法的にも、これが妥当であろう。製造・販売業者と同列に媒体責任を課していたとされる当初の厚生労働省のガイドライン案も、媒体責任の記述を削除せよとする新聞社側の主張も、どちらも妥当性を欠くものである。そして、「諸判例」を根拠として挙げている新聞社に対しては、判例の一面的なつまみ食いをしていると言わざるを得ない。

Google AdSense を導入する新聞社が主張する「免責」は二枚舌

さて、ここまで調べ考えてみると、新聞の Web サイトに Google AdSense を導入することの不自然さに気づく。ほかでもない、新聞自体が広告媒体であるはずだからだ。ブログなどの一般の Web サイトとは、その導入の意味するところは根本的に異なるはずである。

しかし、発行部数6位までの新聞の Web サイトを確認してみると、YOMIURI ONLINE (読売新聞)、asahi.com (朝日新聞)、NIKKEI NET (日本経済新聞)、Sankei WEB (産経新聞) の4社が Google AdSense を導入している。なお、MSN毎日インタラクティブ (毎日新聞) は MSN (Microsoft) の広告システムを導入している。自前ですべての広告を審査、管理していそうなのは、CHUNICHI Web (中日新聞) だけである。

Google AdSense を導入している4社のうち、読売、朝日、日経の3社は、Google AdSense の上部に小さく表示される「Ads by Google」という文字をクリックすると開くウィンドウにおいて、新聞社の免責を以下のように主張している。

 この広告はGoogleによって提供される、コンテンツに連動した広告システムAdSense(アドセンス)です。

 これらの広告は、あらかじめ広告主が指定したキーワードを元にサイトの内容に対して関連のある広告を自動的に配信するものです。表示結果の内容は Googleの広告掲載基準や条件を満たしたものですが、一切の責任は広告主及びリンク先ウェブサイトの運営者にあります。読売新聞社は、その内容に一切 の責任を負いません。

 これらのGoogleの広告についてのお問い合わせ及び詳細はwww.google.co.jp/ads/をご覧下さい。

(YOMIURI ONLINE (読売新聞) にて「Ads by Google」をクリックすると開くウィンドウ より引用)

上記は読売の文面を引用したが、朝日の文面日経の文面も同様である。なお、産経の場合は、Google AdSense に固有の注意書きはなく、サイト全体の利用規約にて広告一般の免責条項が記されているのみである。産経よりは他の3社のほうが少しはマシかもしれないが、そもそも「Ads by Google」をクリックすると免責条項が現れることを、それこそ読者は「容易に予見し得」ない。結局、みんな同類である。

このように、新聞社は、一方で自主規制努力をアピールして広告表現の自由を維持しようとしておきながら、Google AdSense を導入して「Googleの広告掲載基準」に丸投げし、広告料を稼いでいる。「読者保護の観点から広告の審査業務を行っており」などと言ってなかったっけ?二枚舌ではないか?

新聞の信頼を新聞社自ら Google レベルにおとしめるのか

そもそも、「一切の責任を負いません」というのも不当ではないか?少々ブログ検索してみると、同様の疑問を呈している記事を、少ないながらも一つ見つけた。関西大学社会学部教授の水野由多加さんのブログ記事 So-net blog:千里一隅(旧・千里山一里):Ads by Googleのメディアビジネス がそれである。

一義的には、朝日新聞社に大きな問題がある。なぜならば「その広告を見る人はAsahi.comの広告を見ている」のであり、「記事に連動した内容の広告 が自動的に露出するから」、その受け手の意識の流れの利用について朝日新聞社が免責とは考えにくい。さらに朝日新聞社は、この広告掲出について(当然なが ら)広告対価を「受け取っている」のである。広告費の支払は受け取って、一切それが原因となるようなトラブルには免責とは、どのような論理なのだろうか。
しかし、ことはAds by Googleである。Ads by GoogleはAsahi.comに「上記のような取引を持ちかけた」のである。契約のもう一方の当事者としての倫理はどう考えるべきか。

(So-net blog:千里一隅(旧・千里山一里):Ads by Googleのメディアビジネス より引用)

当の Google は、設立への実績を新聞社が強調する日本広告審査機構 (JARO) には入会していない。広告の苦情に対する Google の姿勢を示す事例として、虚偽・誇張の広告について Google に問い合わせた際の定型文返信メールを、先月の記事に引き続き、ここに再掲する。

小川創生様

Google アドワーズ広告の広告主によるサービスの不具合に関し、ご連絡いただきありがとうございます。

アドワーズ広告プログラムでは、企業が自社のサービスの広告を掲載する場を提供しております。

弊社では顧客サービスを重視しており、広告主様にはユーザーに対する質の高いケアを期待しております。

しかしながら、弊社においてすべての企業の活動を監視できるわけではなく、またそのような責任も負っておりません。

お客様からのご連絡を受けまして、弊社ではこの広告主のアカウントを確認し不適切な点があるかどうかを調査いたします。

お客様におかれましてはその企業が所在している都市の公的機関等と連絡を取り、調査を依頼していただきますようお願い致します。

Google AdWords Team

本来は新聞社が広告を審査して掲載するはず (べき) で、読者も普通はそう認識している。なぜそれを、Google に丸投げするのだろうか。それは、「広告に対する読者らの信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼とまったく無関係に存在するものではなく」と認めてくれた最高裁判決と読者に対する裏切りであろう。

言うまでもないが、Google には、そのような読者 (利用者) の信頼はない。この論点において、Google は格付けの低いジャンクに過ぎない。

新聞社は、Google AdSense の導入をやめるか、さもなくば、広告審査等の自主規制努力を払っている (だから広告表現の自由を阻害するな) などという従来の主張をやめるべきである。どちらかしかないはずである。後者を選ぶならば、新聞社の信頼はそこいらの Web サイトと同レベルだということになる。

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