2007年5月20日

サッカーくじ toto BIG のキャリーオーバーの本質

最高6億円が当たるという toto BIG は、キャリーオーバーが約15億円あることから話題となって、昨日 (5月19日) 締め切りの第278回では過去最高の約61億円の売り上げを記録した。なるほど、キャリーオーバーも売り上げも少ない時は、たとえば宝くじ (還元率46.3%) などと比べても、toto BIG は分が悪すぎるくじである。

特に、キャリーオーバー (加算金) が完全に0の時は、売り上げがいくら大きくても、当たった口数がいくら少なくても、当せん金の上限は3億円となってしまう。

(払戻金)
第12条
1口当たりの払戻金は、関係法令に定めるところにより、スポーツ振興投票の類型ごとかつ第5条第1項による指定試合の数及び指定試合の組ごとに、売上金額の50%に相当する額を、センターがあらかじめ定める率に応じて各等ごとに配分し、それらの金額にそれぞれ次条による加算金を加えた金額(以下「配分金額」といいます。)を、各等ごとに合致した投票口数であん分した金額となります。
2 「toto」の1口当たりの払戻金の最高限度額は、第5条第1項による指定試合の数が14の場合は、一等は3億円(一等に加算金がある場合は6億円)
(以下略)

(toto約款より引用)

toto BIG の本来の還元率は50%、つまり、毎回の売り上げの50%が当せん金に配分される。そのうち40%が1等、10%が2~4等に配分される。また、toto BIG において、各試合の勝ち、負け、引き分けのいずれかの指定は、くじ販売時にランダムに指定されるため、人的な予想を行う従来の toto と違い、1試合あたりの当たる確率は常に3分の1となる。指定試合が14試合なら、1等 (指定試合の勝ち、負け、引き分けがすべて的中) が当たる確率は、3の14乗 (478万2969) 分の1となる。toto BIG は1口300円であるから、1等の当せん金の期待値は本来、300×4782969×40% = 5億7395万6280円 となるべきである。

しかし、キャリーオーバーが0であれば、前述のように、その回の売り上げがいくら大きくても3億円が最高限度額となり、差額は次回へのキャリーオーバーとなる。実質的な還元率は約31%まで落ち込んでしまう (売り上げが少なければ3億円すら配分できないためさらに低下する)。「キャリーオーバーがたくさんある今こそチャンス!」というようなあちこちの煽りとは裏腹に、そもそも、キャリーオーバーが0では分が悪すぎる公営ギャンブルなのである。

なお、toto約款を素直に解釈すると、キャリーオーバーが1円でもあれば、売り上げと当せん口数次第では1等6億円が生じる可能性はある。

ただし、今回ほどには人気が沸騰していなかった回の売り上げは、たとえば今シーズン最初の第261回 (3月3~4日) は1億2618万3900円 (42万0613口) にとどまっている。とりあえず1等が1口だけ出た (自分だけ当たった) 場合に備え、最低でもキャリーオーバーが6億近くないと、「買えない」くじだということになる。

逆に、今回 (第278回) のように61億2033万1500円 (2040万1105口) の売り上げがあれば、そのうちの40% (24億円強) が1等に配分されるから、1等の当せん口数が4口までなら、キャリーオーバーを取り崩さなくても6億円を各口に配分できる。そして、1等の当たる確率は約480万分の1だから、1等の当せん口数の期待値は4口強といったところである。試しにプログラムを作成して確率計算してみたところ、今回の1等の当せん口数が4口以内に収まる確率は57.4%ある。

つまり、売り上げが十分大きければ、キャリーオーバーなど、あまり意味がないのである。こうした制度は、toto BIG の売り上げが低迷していることを前提として、6億円という最高限度額と組み合わせ、本来の1等当せん金の期待値である5億7395万6280円に近い値へ平準化させるための方策だったわけである。

しかし、キャリーオーバーが底をついて0円となった途端、平準化どころか、極端に分の悪いくじへと toto BIG は化けてしまう。ちなみに、今回のキャリーオーバーは15億円弱で、合計約39億円が配分可能だから、当せん口数が7口以上ならば、次回へのキャリーオーバーは0となり、次回の1等当せん金の最高限度額は3億円となってしまう。先のプログラムの計算では、今回の当せん口数が7口以上となる確率は14.2%ある。

ここで、

キャリーオーバー発生時の最高限度額 (6億円) > 本来の1等当せん金の期待値 (5億7395万6280円)

という不等式が僅差ながら成り立つことに注意してほしい。キャリーオーバーがずっと残っているということがないように制度設計されている。それはよい。

しかし、キャリーオーバーが0の回は、次回以降への寄付みたいなくじとなってしまう (笑)。次回にせよ、次々回以降にせよ、計算上、そのうち一旦はキャリーオーバーが0となる時が来る。その時にどのような反応が起こるか、少々興味深いところではある。

・・・と書いているうちに、今回の結果が発表された。1等は7口、つまり、次回へのキャリーオーバーは0である・・・

追記

1等当せん金の期待値早見表を別記事に掲載した (6月23日)。

2007年1月21日

「発掘『捏造』!あるある大事典II」と遺跡発掘捏造との共通性

美容・ダイエット宣伝番組として知られる「発掘!あるある大事典II」 (フジテレビ系、関西テレビ制作) についてのブログ記事を書こうかとネタ集めをしているうちに、とんでもない真実を昨日 (1月20日) のNHKのニュースで聞かされた。出遅れてしまった。

1月7日に放映された、納豆のダイエット効果をPRしたこの番組の内容は、捏 (ねつ) 造であった。しかも、捏造であることを関西テレビ社長は謝罪会見でもなかなか認めようとしなかった。

ねつ造は、被験者の架空の検査データを作成したり、米国の教授のコメントを勝手に作るなど悪質なものだったが、千草社長は「事実と異なる部分があった」と 当初、繰り返すだけで、「ねつ造」と認めようとしなかった。記者団から問題の認識について再三、追及を受けた結果、会見最後になって「ねつ造だと思っている」と認めた。番組内容のチェック体制についても、最初は「若干の不備」と話すだけだった。

(中略)

ねつ造の発覚は、週刊誌から12日と18日に取材を受けたことがきっかけ。記者会見後には、週刊誌記者の追及を受けて、週刊誌からの質問状を元に会見での発表資料を作成したことを認めるなど、後手後手の対応が目立った。

(Yahoo!ニュース - 毎日新聞 - <番組ねつ造>関西テレビ社長会見 認識甘く、後手後手 より引用)

「番組内容を取り消さないのか」と問われると、千草社長は表情をこわばらせながら「納豆のダイエット効果は学説で裏付けられている。番組の根幹部分で違っていたかは調査中だ」と説明するにとどまった。

さらに「架空のデータや無関係の写真を使っており明らかに捏造ではないか」と問われ、千草社長はようやく「個々のデータについては捏造があった」と述べた。

それでも千草社長は、番組全体を捏造だと認めることには、抵抗を続けた。会見終了間際にも「(捏造を)認めていないわけではない。データ的にはそうだったと認識している」と繰り返し、「番組全体では私たちは事実に基づいてやっているわけだが、信頼感をなくしたことは事実で、深く反省したい」と答えるにとどまった。

(asahi.com:関西テレビ社長、「捏造」渋々認める 納豆ダイエット より引用)

毎日新聞の記事に出てくる「週刊誌」というのは週刊朝日のことで、1月16日発売の週刊朝日には「「発掘!あるある大事典II」が絶賛した 納豆ダイエットは本当に効くの?」という記事が掲載されていた。「視聴者の皆様」へと題する現時点の関西テレビのお詫びは、週刊朝日記者の質問状の受け売りである。取材調査能力のないテレビ局の社長に、「納豆のダイエット効果は学説で裏付けられている。番組の根幹部分で違っていたかは調査中だ」などと言われても、誰も信用しないだろう。

番組名から、図らずも「発掘捏造」(毎日新聞旧石器遺跡取材班) という書籍を思い出す。その続編の「旧石器発掘捏造のすべて」については Amazon.co.jp でレビューを書いていた。このブログ記事のタイトルはそこから採ったものである。「あるある」についても前々からそう呼称したかったのを自粛していたが、今なら、名誉棄損などには当たらない。

その発掘捏造と今回の捏造に共通するのは、やはり商業主義との不健全な結びつきである。

 10月16日深夜、報道部会議室でミーティングを開いた。まず山本が上高森遺跡発掘の大まかなスケジュールを報告した。4日後の20日に調査隊が集合し、21日から本格的にスタートする。27日が記者発表、29日が一般向けの現地説明会の予定という。
「やっぱり、記者会見が決まっているの?」
 山田が口をはさむ。そもそも発掘にあたって、新たな石器を発見できるかどうかは分からないのに、あらかじめ記者会見を設定すること自体、おかしな話だった。だが、東北旧石器文化研究所が主体となる発掘調査では、事前に記者会見の日程が決まっているのが普通だった。

(毎日新聞旧石器遺跡取材班. 「発掘捏造」. 毎日新聞社, 2001年, p104.)

商業主義に基づくスケジュールがあらかじめ決められており、それにのっとった「発掘」が期待され、要求される。捏造した当事者だけでなく、利益を得る取り巻きにも批判の目が向けられるべきで、書籍においては毎日新聞記者の自戒の念が記述されている。

そもそも、一般の関心を引き (高視聴率が見込め)、なおかつ確かな根拠のある「発掘」(研究発表) など、毎週の放映でできるはずがない。本当に価値のある科学的発掘には、見積もり不能なリスクとコストが伴うはずである。番組の内容に合う実験結果なんて、そうそう得られるものではない。スケジュールが決まっている「発掘」なるものは、最初からウソだと思っておいたほうがいい。

さらに、「あるある」における、その商業主義に基づくスケジュールについて、看過できない記事を目にしていた。

フジテレビ系列の『発掘!あるある大辞典II』は前まえから「放送内容が事前に流通サイドに流れている」という噂があった。大手スーパーがそれらTVの放映情報を元に、該当商品を大量に買い占めている、という内容だ。このため、零細商店は影響をこうむり数日間、ときには数カ月に渡って欠品状態が発生しているのだ。

このたび、納豆製造元のある食品メーカー(長野県・飯田市)が流通側に出した文書を入手した。『「あるある大辞典II」納豆特集の放映の案内のご案内』という表題で、平成18年12月21日付だ。つまり、同番組の放映の二週間以上も前に、納豆メーカーから大手流通関係者に流れた情報提供の案内文だった。

(livedoor ニュース - フジ系列 『発掘!あるある大辞典II』、放映前に内容が大手に漏洩(上) (1月14日) より引用)

この、長野県飯田市に本社がある、大手流通関係者とも関係がある大手の納豆業者というのは、ほぼ間違いなく旭松食品のことだろう。事前に番組内容が流れること自体は一歩譲って問題ないとしても、一部の流通関係者だけに公共の電波の内容が伝わるというのはいかがなものか。

さらに、旭松食品の株価チャート (Yahoo!ファイナンス)を調べてみると、「あるある」放映後の大商いはともかくとして、番組の内容が旭松食品から関係者に流されたとするその2006年12月21日にも、平常時と比べると出来高が増えていることが分かる。もちろん、実際の原因は分からない。ただし、たとえそうした情報を知った者による株取引があったとしても、このケースでは証券取引法違反とはならないだろう。やはり、株取引なんていうのは、いかにして有利な情報が手に入るかで勝ち負けが決まってしまう、非対称な不完全情報ゲームである。

さて、この「あるある」には有名な批判サイトがある。鷺一雄さんの「教養ドキュメントファンクラブ」がそれで、この方は「また「あるある」にダマされた。」という書籍も出版している。実は私は、1月7日放映分の当該番組を視聴していない。この批判サイトを時々閲覧して楽しんでいたクチで、「納豆ブーム」に直面してあらためてこのサイトを閲覧し、番組内容を知った次第である。今日 (1月21日) またこのサイトを見てみると、関西テレビが捏造を認めたことを早速取り上げていた (鷺さんのところにも週刊朝日記者から電話取材があったようである)。

おそらく、鷺さんの以下の記述が、「納豆ダイエット」なるものの本質だろう。

要はこのダイエットの本質は、食事前に重たい納豆を腹一杯ぶち込んで、食事量を減らしましょうというだけの話。納豆を宣伝したいという意図が露骨にあるから、まるで納豆が特別な食品のように言っているが、そんなことはまるでないわけである。だからこれは納豆でなくても、例えば食事の野菜の比率を増やすなどでも覿面に効果がある。むしろ逆に、納豆ばかりこんなに摂りまくったら、その方がバランスの崩れで危険である。

(中略)

全く、新年早々やってくれるわ・・・。それにしてもこの番組のパターンって、いつも同じだな。食事前にヨーグルトをたらふく腹にたたき込むか、同じく食事前に寒天をたらふく腹にたたき込むか、やはり食事前にリンゴとミカンをたらふく腹にたたき込むか、いずれにしてもこの腹にたたき込む食材に、その時の宣伝したい食材を持ってきたら、番組が一本できあがるというわけである(まあさすがに、食事前に饅頭を腹一杯たたき込むというわけには行かないだろうが)。あほくさ。

(鷺一雄「発掘あるある大事典」(教養ドキュメントファンクラブ) より引用)

まったく「あほくさ」なのだが、一定数の視聴者が真に受け感化されてしまっているのも事実である。例の「あるある」の放映直後、私の勤務先の社員食堂でも納豆が品薄となった。私はもともと週に2~3パック程度の納豆を食べる人で、「あるある」を真に受けて納豆を手にする人々を疎ましく思っていた。

結局「あるある」は、表現の自由が許される著作物を組み合わせて薬事法や健康増進法の規制をすり抜ける、典型的なバイブル商法の片棒担ぎに過ぎなかった (1月22日、26日訂正: 当初「体験談を主体とした広告」とも記載していたが、体験談の広告でも法令違反の可能性があるため記載を削除。また「健康増進法」を追加)。科学でないものを科学っぽく見せる、いわゆるニセ科学でもあった。「発掘!あるある大事典II」の公式サイトを開くと、「あるある」の名前を使って商品を販売する業者と当番組とは一切関係ないとの「ご注意!」が表示されるが、なにをかいわんや、である。今日 (1月21日) の放映は休止するそうだが、番組自体の構造に問題があると言わざるを得ず、番組の打ち切りが妥当だろう。

ただ、「あるある」の場合は科学っぽく見せる実験すら捏造しており、稚拙なウソでもあったからこそ今回発覚した。もっと巧妙なウソに対しても、「捏造」とか、「ニセ」とか、「あほくさ」とか、いちいち誰かが言い続けなければならない。だまされる人が悪いのだ (放っておけばいい) という意見もあるが、そうした主張を、ニセ科学批判で知られる大阪大学教授の菊池誠さんは、「傍観しているだけでは、結局自分の首を絞めることになる」「科学とニセ科学は"市場"(受け入れる人たち)が同じ」と戒めている、もしかしたら私自身にも、自分の職業上の得意な分野で、何らかの責任が生まれてしまうことがあるのかもしれない。昔は発言自体不可能だったが、今ならインターネットという手段がある。そうした状況であることを自覚した上で、あふれかえる情報に接していかなければならない。

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ブログ人登録 2008年03月15日