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2007年2月25日

複利計算の近似値暗算手法「72の法則」にみる検算と数学の大切さ

いま、日本でおそらくもっとも人気の高いソーシャルブックマークのはてなブックマークでは、「ITmedia Biz.ID:複利計算を“暗算”で行う」という記事が300近いブックマークを集めている

その記事の内容は、複利計算における、「72の法則」と呼ばれる暗算可能な近似計算手法の紹介である。たとえば金利4%だとして、元金が2倍となるのは何年後か知りたいとする (税金は考慮しない)。単利なら25年後 (100 ÷ 4) とすぐに暗算できるが、複利では簡単に暗算できないように思える。ところが、72を金利 (%) で割って、72 ÷ 4 = 18年、というように近似計算できるというのが、「72の法則」である。 試しに表計算ソフトの Excel を使って正確な期間を検算すると約17年8か月後 (年単位の複利とし、月単位は12分の1の単利で計算) となった。確かに近似計算できている。

正直言って私は「72の法則」を知らなかったが、投資や金融に明るい人の間では広く知られている暗算手法らしい。はてなや ITmedia にアクセスする人というのは、どちらかというと、ネット関連の先進的な事柄には詳しくても、お金の話には疎いのかもしれない (苦笑)。知っている人は知っているという話であるならば、はてなブックマークにおける注目の集まり度合いは、いささか過熱気味だということになる。

この「72の法則」の数学的根拠は、二項定理のテイラー展開であり、大学教養課程 (もしくは高校数学の応用) のレベルである。元の記事においては、「テイラー展開」という言葉は使用せずに要点を簡単に解説している。たぶん、どこかの投資指南書に載っている話の引用であろうし、言われてみれば確かにそうだね、というレベルの話ではある。しかし、こうした実社会で使える数学の事例というのは、無責任な「数学なんか役に立たない」論への反論材料としても貴重だろう。勉強させてもらったと率直に思う。

しかし、この元の記事には、「それは違うだろ」という誤用も見られる。

3000万円の家を2%ローンで買った──。この場合の合計支払額をざっくり暗算するなら、72÷2=36。つまり36年で額はだいたい2倍となる。ロー ンの場合、徐々に元本も減っていくので細かな数字は変わるが、いわゆる35年ローンならば6000万円程度を合計で支払うことがすぐに分かる。

(ITmedia Biz.ID:複利計算を“暗算”で行う より引用)

「徐々に元本も減っていく」ことに気づいていながら、なぜそんな計算になってしまうのか?これについても検算してみたら、支払総額は4173万9109円となった (元利均等、月単位の複利、毎月定額支払で計算し、計算途中での四捨五入は無し)。6000万円も払う必要はない (笑)。こうしたローンの支払いについては、よく知られた (暗算は無理だが) 便利な計算式がある (Googleで検索してもすぐに見つかる) ので、すぐに検算できる。もっとも、検算するまでもなく間違いであることに気づくべき、明らかな誤用でもある。

しかし今のところ、はてなブックマークのコメントには、間違いを指摘するものは一つもない。スルーしているのか?それとも鵜呑みにしてしまっているのか?

さて、Google で「72の法則」を検索してみると、All About の記事が検索結果のトップとなる。面白いことに、貯金を2倍に増やしたい人向けと、借金が2倍になるのが困る人向けと、両サイドの記事がトップに表示されている。

そのうち、借金サイドの「借金はいつ2倍になる? 変則「72の法則」 - [お金を借りる・返す]All About」において、不適切な「72の法則」の適用例が示されていた。

上限金利29.2%だと… 2年半で到達!

グレーゾーン金利で話題になっていますが、出資法の上限、29.2%だと一体どんなスピードで倍に達するのでしょうか?

(72÷29.2%=2.465) 2年半ほどで、倍になるのです。

(「借金はいつ2倍になる? 変則「72の法則」 - [お金を借りる・返す]All About」2ページ目 より引用)

29.2%ほどの高金利でこのような近似計算は不適切だということの理解が、この記事の執筆者 (ガイドの横山光昭さん) には欠けていると言わざるを得ない。テイラー展開を知っている人なら、この「72の法則」という近似計算は、0の近傍 (つまり低金利) においてのみ適用可能だということに気づくだろう。なお、ITmedia の記事では「0~15%程度の場合」としており、この点について適切に説明している。

これについても検算してみたら、2年8か月を数日過ぎた時に、借金が2倍となる (年単位の複利とし、月単位は12分の1の単利で計算)。たいした誤差ではないと思う人もいるかもしれないが、1割も誤差が生じてしまうようでは、お金に関する大事な話であれば、別途検算が必要である。

それに、これはあくまで近似解を求める暗算手法の紹介である。記事のような文書に記す (検算できる状況にある) 際に、正確な期間を計算して誤差を示すことなく「2年半で到達!」という見出しを打つのは、やはり、不適切な誇張である。

だいたい、単利とみなして暗算 (100 ÷ 29.2) したって3年あまり (約3.4年) となるのだから、複利ならだいたい3年かそれより少々短いという程度までは見当がつく。また、電卓があれば、1×1.292とした後に「=」を3回連打すれば、3年未満で2倍になることはすぐに分かる。それに、72 ÷ 29.2 って、誰にとっても簡単な暗算だろうか?さして正確でもない近似計算の暗算を無理にやるよりは、コンピュータを使って正確に計算したほうがよい。29.2%という金利において、「72の法則」を持ち出す意義はない。

「72の法則」の有用性を理解し、同時にその限界を把握するためには、自分で検算して確認してみること、そして、数学についての理解が必要である。あるいは、数学に強くなくても、せめて検算してみることである。それは「72の法則」に限ったことではなく、数学的に見える事柄すべてに当てはまることだろう。

2007年2月14日

薬事法関連の広告審査について Overture (Yahoo!) と Google を比較した

先の記事「薬事法・健康増進法逃れに利用される Google AdSense」では、コンテンツ連動型広告 (Google AdSense) あるいは検索連動型広告 (Google AdWords) におけるキーワードの登録について、薬事法などの法規に抵触していないかチェックする責任が広告主や Google にはあるだろうと述べた。これについては、Google だけではなく、Overture (Yahoo! 傘下) も同様のサービスを展開しており、同様の議論が当てはまる。検索連動型広告では Google よりも日本の市場占有率は上であり、Yahoo!、MSN、エキサイトなど、およそ Google 以外の主要な検索サービスに Overture が導入されている。そこで、両社の比較を試みた。

GoogleYahoo! JAPAN の検索サービスにおいて、成分名または疾患・症状名を検索キーワードとし、当該成分を含む健康食品の広告リンクが現れるかどうかをテストした。疾患・症状名から広告リンクが現れるようだと、薬事法関連の広告審査や自主規制が甘いのではということになる。一方、疾患・症状名からも成分名からも広告リンクが現れないようだと、そもそも広告が存在しないのではということになる。つまり、成分名では広告リンクが現れ、疾患・症状名では現れない場合、薬事法関連の審査や自主規制が機能している可能性が認められることになる。

なお、成分名、疾患・症状名の選出においては、日経BPの「闘う男の健康食品講座 時間をかけずに,必要な栄養成分を摂る!」というサイトを参考にした。このサイトは、サントリーの「取材協力」のもとで藤木理絵さんという記者が書いた記事広告である。成分の医薬品的な効能効果をあれこれ記述した上でサントリーの (医薬品等ではない) サプリメント商品を紹介し、記事の最後では販売サイトにリンクするという構成である。典型的なバイブル商法のネット版であり、薬事法に抵触していると考えている。(このサイトについて、これ以上の話はまた後日ということで。)

疾患・症状名で検索して広告リンクが表示された場合に絞って、テスト結果を表にしてまとめた。限られたキーワードを対象としており、広告リンクについても、(私の)見落としがあり得る上に時々刻々と広告主は変化するだろうことを踏まえて、ご覧頂きたい。

成分名
疾患・症状名
Google Yahoo! JAPAN
(Overture)
有無判定対象とした広告リンク
マカ 有り (多数有り) 有り (多数有り) ・サントリーのマカ
・サントリーのマカ冬虫夏草
不妊 有り (サントリーのみ) 無し
精力減退 有り (サントリーのみ) 無し
グルコサミン 有り (多数有り) 有り (多数有り) ・サントリーのグルコサミン
・辛い関節を何とかしたい方
(www.admate.jp)
・元気でアクティブな毎日を応援
(www.cgate.co.jp)
関節痛 有り (サントリー以外も有り、
「その他のスポンサー」に
サントリーが存在)
有り (サントリーは無し)
アントシアニン
(ブルーベリー)
有り (多数有り) 有り (多数有り) ・サントリーのブルーベリー
・ブルーベリーならサントリー
・サントリー 瞳の健康法
・目の疲れを感じたら!
(kokoro33.health-life.net)
・TVで紹介されました
(www.783793.com)
・甘酸っぱいおいしさで人気急上昇
(megu.vivian.jp)
・医者が選ぶサプリメントの通販
(www.ordersupli.com)
・パソコンなどよく使う方に
(www.ably.co.jp)
・朝日新聞で取り上げられた
(famima.foodpark.jp)
疲れ目 有り (サントリー以外も有り) 有り (サントリーは無し)
眼精疲労 有り (サントリー以外も有り) 有り (サントリーは無し)
ドライアイ 有り (サントリーは無し) 無し
肩こり 有り (サントリーは無し) 無し
DHA, EPA 有り (多数有り) 有り (多数有り) ・サントリーの「DHA&EPA」
血行不良 有り (サントリーのみ) 無し
甜茶 有り (多数有り) 有り (多数有り) ・話題の快適グッズはケンコーコム
(www.kenko.com)
花粉症 無し (ただし他の成分の
健康食品は有り)
有り (サントリーは無し)
ノコギリヤシ 有り (多数有り) 有り (多数有り) ・サントリーのノコギリヤシ
前立腺肥大症 有り (サントリーのみ) 無し
残尿感 有り (サントリーのみ) 無し
頻尿 有り (サントリーのみ) 無し
表: 成分名、疾患・症状名をキーワードとして Google、Yahoo! で検索した際の広告リンクの有無 (2月12日調査)
(注意) 疾患・症状に対する効能効果の真偽は考慮していない。

念のため、表に挙げた疾患・症状に対する効能効果が、各成分、各商品に本当にあるのかどうかは、ここでは考慮していない。医薬的な効能効果を標榜している時点で、真偽を問わず薬事法の規制の対象となる。薬事法以外の、たとえば健康増進法においては、虚偽・誇大かどうかが問われてくる。(そのうえでの参考として、国立研究・栄養研究所の「「健康食品」の安全性・有効性情報」によると、たとえばアントシアニンについては、「俗に、「視力回復によい」「動脈硬化や老化を防ぐ」「炎症を抑える」などといわれているが、ヒトでの有効性・安全性については、信頼できるデータが十分ではない。」としている。)

テスト結果を見る限り、どうやら、Yahoo! JAPAN (Overture) のほうが、薬事法関連の広告審査が厳しいように見える。

このことは、両者の規約等からも伺える。Overture においては、「掲載ガイドライン」という文書において、日本の薬事法による規制を明記している。

医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、健康食品など
医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器などの広告につきましては、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布することが法律により禁じられています。また、その効能効果について表現できる範囲が定められています。なお、公務所、学校、各種団体、医師などがこれらの医薬品などを指定、公認、推薦し、又は選用している旨などの広告も認められておりません。なお、健康食品、健康器具、美容器具、健康雑貨などについても、医薬的な効能効果を標榜した場合は、その規制対象となることがあります。所管官公庁が示す基準、考え方や具体的にどのような行為が違反とされているかについては、東京都福祉保険局健康安全室薬事監視課のホームページなどでご確認ください。
東京都福祉保険局健康安全室薬事監視課Webサイト
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/yakuji/kansi/cm/top.html
化粧品の効能効果の表現の範囲
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/yakuji/kansi/cm/cosme.pdf

(オーバーチュア株式会社 掲載ガイドライン(2006年12月)より引用)

一方、Google においては、「Google AdWords コンテンツ ポリシー」という文書において、かろうじて以下の一文が掲載されている。

妙薬
医薬品でないにもかかわらず効果効能を宣伝する広告は許可されません ("一晩でがんが治る" など)。

(Google AdWords: コンテンツ ポリシー (日本語に切り替え) より引用)

「妙薬」ってなんぞや? と思い、英語の原文を当たってみた。実は、「医薬品でないにもかかわらず効果効能を宣伝する広告」という表現は、日本の薬事法に沿った改訂であることが分かった。

Miracle Cures
Advertising is not permitted for the promotion of miracle cures, such as 'Cure cancer overnight!'

(Google AdWords: Content Policy (英語に切り替え) より引用)

「一晩でがんが治る」という例示がどうも極端だと思ったら、これはやはり「妙薬」の例示であった。Google なりの努力の跡は伺えるものの、いささか心もとない。

ただし、Google も日本の薬事法関連の広告審査をやっているそうだ (そりゃそうだ)。インターネット広告代理店の株式会社アイレップの記事「Google アドワーズの“審査”を再確認しよう」によると、登録キーワードと広告文の双方について、審査が行われているとのことである。検索連動型広告の Google AdWords では、まず、使用禁止キーワード (非公開) との自動照合を実施しているそうで、薬事法関連の使用禁止キーワードも用意されているとのことである。これに引っかかると、人間による事前審査に回されるそうである (引っかからなくても事後審査はある)。一方で、コンテンツ連動型広告の Google AdSense では、最初から人間による事前審査が行われるそうである。

一方、Overture では、検索連動型広告であっても、人間による事前審査が実施されているそうである。また、アイレップの別の記事「リスティング広告出稿における薬事法クリアのポイント」によると、少なくとも Overture の広告審査では、疾患・症状名のみならず、医薬的な効能効果を標榜する表現は実際に広告掲載お断りとなっているそうだ (Google でも、人間による審査は同様であろう)。

少なくとも、疾患・症状名をキーワードに登録することは、それだけで医薬品的な効能効果を標榜しているとみなされる。テスト結果では Yahoo! JAPAN (Overture) と比べて審査漏れの目立つ Google においても、成分名で検索した場合と比べて疾患・症状名で検索した場合の当該広告リンクは激減している。一定の審査あるいは自主規制が効いていることは十分に伺える。

とはいえ、いくつかの疾患・症状名で Google 検索してみると、サントリーの広告リンクの審査漏れは際だっている。他社が手を引いてしまうようなキーワードでも、サントリーだけが健康食品のリンク広告として表示されているという場合が Google では散見される。その理由として、そういう宣伝方針なのがサントリーのみであるという可能性のほかに、Google の審査をすり抜けやすい独自のノウハウやコネを持っているのかもしれない (あくまで想像だが)。

さて、本来こういうテストは、網羅的、定期的に実施するべきだろう。しかし、私一人ではとても手に負えそうもない (苦笑)。どこかの信頼できる公的機関がやってくれないだろうか?

2007年2月 3日

薬事法・健康増進法逃れに利用される Google AdSense

まず、「症状別サプリメント逆引き事典」というサイトの、不妊に悩む人にマカ等を勧めるページから抜粋した以下の画像を見てもらいたい。

不妊の悩み

(「不妊の悩みを解消したい:症状別サプリメント逆引き事典」の表示画面を1月28日抜粋)

不妊に悩む人にマカを勧めること自体はあくまで表現の自由の範ちゅうである。しかし、Web ページにおけるこのような状態は、健康食品の広告を規制する薬事法や健康増進法などの関連法規逃れではないか?というのがこのブログ記事の主旨である。

なにも該当事例はこのサイトだけではない。もうひとつ、Sankei WEB (産経新聞) のページから抜粋した以下の画像を見てもらいたい。(サントリーに注目)

産経新聞の画像

(「そろそろ季節… 花粉症グッズはそろってますか?|健康|生活・健康|Sankei WEB」の表示画面を1月30日抜粋)

花粉症に効くという科学的根拠がたとえあったとしても、単なる飲料やサプリメントである限り、このような状態は薬事法に抵触するのではないか?(この事例の場合、サントリーへのリンクのタイトルが「花粉の季節を乗切る準備を」となっているのは、サントリー単体でも問題があると思われる。) ただし、産経新聞の記事自体はあくまで表現の自由の範ちゅうであるというところに注意して欲しい。そこがこの話のポイントである。

なお、これらのサイトや広告リンクを事例として取り上げたことについては、分かりやすい事例をそこで見つけたという以上の他意はない。たとえば asahi.com (朝日新聞) や YOMIURI ONLINE (読売新聞) も Google AdSense を導入しており、健康食品会社等の PR をそのまま記事にした場合は同様の状態が発生する可能性がある。実際、さまざまなサイトでこうした事例は散見される。

Google AdSense

このブログ記事の末尾にも、広告リンクが「--- Ads by Google ---」として自動的に挿入されている。Web サイトの文章からキーワードを拾い出し、それに該当する広告リンクを表示するということを、Google が自動的に行っている。これを Google AdSense (グーグル アドセンス) と呼ぶ。広告主は、キーワードを指定し、キーワードの人気度に応じて Google に登録料 (オークションで決定) を支払っている。ココログの無料版 (ココログフリー) では、無料でブログサービスを提供する代わりに、Google AdSense をブログに挿入し、広告リンクのクリック回数に応じてニフティが Google から成果報酬を得るという構図となっている。ココログフリーのブログの作者 (たとえば私) は、その広告を改変・削除しないという利用条件に同意した上でココログフリーを無償利用している。

Google AdSense によってどんな広告リンクが表示されるのかは、表示されてみないと分からない。Web ページを更新すれば広告リンクも当然変化するし、何も Web ページを更新しなかったとしても、Google 側の広告主データベースが更新されれば、やはり広告リンクも変化する。そして、表示したくない広告を個別に指定して除外するといった管理も可能である。ただし、このココログフリーについて言えば、Google と直接契約しているココログ (ニフティ) にはそうした管理が可能であるものの、ブログの作者 (たとえば私) には不可能である。

あらためてネットサーフィンしてみると、新聞やブログに限らず、さまざまなサイトがすでに Google AdSense を導入していることが分かる。テレビにおける電通のような地位を、インターネットでは Google が占めそうな勢いである。

健康食品の広告と関連法規

さて、健康食品の広告や表示の法的規制については、法律の素人 (たとえば私) でも分かるように、東京都福祉保健局健康安全室のサイトで詳しく説明されており、関係資料も入手できる。薬事監視課監視指導係の「医薬品等の広告規制について(薬事法)」と健康安全課食品医薬品情報係の「「健康食品ナビ」 健康食品を取扱う際の確認ポイント」あたりを入り口として閲覧すると情報を探しやすい。

健康食品の広告や表示は、主に以下の法律によって規制されている。

  • 薬事法
  • 健康増進法
  • 景品表示法
  • 特定商取引法
  • 食品衛生法
  • JAS法

たとえば「不妊にはマカが効きます」と言うこと自体は表現の自由であるが、マカから製造したサプリメント (栄養補助食品であって、栄養「機能」食品ではないことに注意) などの商品広告において記載すると、不妊に効くと認められた医薬品、医薬部外品、特定保健用食品、栄養機能食品のいずれにも該当しないならば、薬事法第68条 (承認前の医薬品等の広告の禁止) に違反することになる。また、実際にマカが不妊に効くのかどうか、国立健康・栄養研究所では「健康な男性の性欲を改善することが示唆された」とする1文献しか把握していないようであり、もしも科学的根拠がないのならば、健康増進法第32条の2 (誇大表示の禁止) にも違反することになる。他社食品との差別化を図った誇大・虚偽の表示ということであれば、景品表示法第4条第1項第1号 (不当な表示の禁止) にも違反することになる。さらにインターネット上の通信販売の広告ならば特定商取引法第12条 (誇大広告等の禁止) にも違反することになる。

なお、「納豆の成分には体脂肪を減らすダイエット効果がある」という納豆の広告においては、納豆は明らかに食品と認識されるもの (「明らか食品」) なので、薬事法違反には該当しない。特定の納豆商品に限った広告というわけでなければ、景品表示法違反にも該当しない。しかし、納豆の成分が体脂肪を減らすという科学的根拠がないのならば、健康増進法に違反することになる。(2月20日訂正: 「通信販売の広告なら特定商取引法に違反することになる」と記述していたが、納豆は同法の指定商品の番号1「動物及び植物の加工品(一般の飲食の用に供されないものに限る。)であって」(以下略) に該当しないと考えられるため、記述を削除した。サプリメントであれば該当する。) なお、納豆ではなくイソフラボン・サプリメントであれば、薬事法違反にも該当する。

広告という形を取らず、書籍等における表現の自由を悪用しようとしているのが、いわゆるバイブル商法である。健康食品の効能、効果、体験談等をバイブル本として自由に書き立て、巻末等に販売業者の連絡先を記述しておくという手口である。これについては厚生労働省から関係団体あてに「書籍の体裁をとりながら、実質的に健康食品を販売促進するための誇大広告として機能することが予定されている出版物(いわゆるバイブル本)の健康増進法上の取扱いについて」という通知が2004年7月に出されており、悪質な業者には行政指導がなされている。これは、先に挙げた健康増進法第32条の2 (誇大表示の禁止) が2003年8月に施行されたのを受けてのものである (そもそも薬事法等にも違反しており、通知にもその旨記載されているのだが、なぜそれまで野放しに?)。

健康食品におけるリンクの法的規制

ただ、もうひとつ正確に把握しきれないのは、インターネット上のリンクについての法的規制である。

ひとまず以下の4通りの態様に分類してみる。

  1. Aが管理する、健康食品Xの販売サイト ⇒ Aが管理する、成分Pの効能・効果等の解説サイト
  2. Aが管理する、健康食品Xの販売サイト ⇒ Bが管理する、成分Pの効能・効果等の解説サイト
  3. Aが管理する、成分Pの効能・効果等の解説サイト ⇒ Aが管理する、健康食品Xの販売サイト
  4. Aが管理する、成分Pの効能・効果等の解説サイト ⇒ Bが管理する、健康食品Xの販売サイト

1と 3は、サイト管理者が共通であり、実質的には同一の態様である。販売サイトと解説サイトを一体とみなせる。

2は、たとえばイソフラボン・サプリメントの製造・販売業者が「発掘!あるある大事典II」の公式サイト (番組打ち切り発表とともに1月23日閉鎖) にリンクを張っていた場合が該当する。Aは製造・販売業者、健康食品Xはイソフラボン・サプリメント、Bは関西テレビ、成分Pはイソフラボンである。

4は、要するにバイブル商法のネット版である。

リンクについて言及している厚生労働省の文書としては、主に健康増進法に関する、「食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)に係る留意事項」(2005年6月最終改正) と「健康増進法上問題となるインターネット広告表示(例)」(2004年1月) を見つけた。ただし、これらの文書が言及しているのは1、3、4であり、2については言及されていない。また、薬事法など、他の法律について同じ条件をそのまま適用するのかどうかは定かではないが、そもそもの趣旨からして、ほぼ同様の条件なのではと推察する。

1と3については、議論の余地は小さいだろう。

2については、リンク先、たとえば「発掘!あるある大事典II」の公式サイトが直接に違法性を問われることはないと思われる。しかし、リンク元の製造・販売業者の片棒担ぎと見られるのを嫌ったのか、先の記事でも記したように、「あるある」の名前を使って商品を販売する業者と当番組とは一切関係ないとの「ご注意!」というポップアップが表示され、さらに、産業技術総合研究所の高木浩光さんのブログ記事「あるある大事典が「一切リンクお断り」としていた心境を推察すると見えてくるもの」にもあるように、「当HPへのリンクについては、一切お断りしておりますのでご了承ください。」と赤字で書かれていた。

もしかしたら、「あるある」は何らかの法的リスク (違法業者がリンクしたがる誇大・虚偽のサイト内容を放置することが民法上の不法行為と認定されてしまうとか) を恐れていたのかもしれない。Internet Archive によると、「リンク一切お断り」赤字表記が追加されたのは2004年8月頃、「ご注意!」ポップアップが追加されたのは2005年3月頃であり、健康増進法改正による規制強化後にそうした追加が施されたことになる。内容を改めるのが本筋のはずなのに。何かの免罪符のつもりだったのだろうが、「放送が国民に最大限に普及」「放送の不偏不党、真実及び自律を保障」というような原則を記した放送法の精神に「あるある」が背いていたのは、こうした Web 上の事象からも読み取れていた。

話を元に戻す。4 (バイブル商法のネット版) については、リンク元 (A) の解説サイトが以下の条件を満たすとき、厚生労働省は健康増進法違反と判断するそうだ。

  • 顧客を誘引する意図が明確にあること。
  • 特定食品の商品名等が明らかにされていること。
  • 一般人が認知できる状態であること。

そして、規制の適用を受けるのはリンク元 (A) で、執るべき是正措置はリンクの削除となる。販売サイトを管理するリンク先 (B) がリンク元 (A) にリンクを依頼していた場合は、当然リンク先 (B) も規制の適用を受ける。

「顧客を誘引する意図が明確にあること」を裏付ける Google AdWords

ここで、冒頭で挙げた画像をもう一度見てもらいたい。

産経新聞の画像

(「そろそろ季節… 花粉症グッズはそろってますか?|健康|生活・健康|Sankei WEB」の表示画面を1月30日抜粋)

先ほどの三つの条件が薬事法にそのまま適用されるのかどうかは分からないが、条件はすべて満たしているように見える。議論の余地が残されているとすれば、Google AdSense によるそうした自動的な表示に「顧客を誘引する意図が明確にある」かどうかであろう。

ただしこの事例において、広告主のサントリーには、Google AdSense を利用して「顧客を誘引する意図が明確にある」ようである。Google で「花粉」をキーワードにして検索した以下の画像を見てもらいたい。

Google にて「花粉」で検索

(Google で「花粉」をキーワードにして検索した表示画面を2月2日抜粋)

右側のスポンサー欄の上から3番目にサントリーの「甜茶」が表示される。なんと、その上下には、サッポロ飲料の「ホップ研究所」とアサヒ飲料の「べにふうき緑茶」も表示されている (苦笑)。当該の記事に出てくる「花粉症対策商品」のうち、ビール系飲料メーカー3社すべてが表示されていることになる。

そして、リンク先のサントリーとサッポロ飲料のサイトには、当然ながら花粉症に対する効能は記載されていない。自社サイトに直接書いてしまうと薬事法に抵触するからである。なお、アサヒ飲料の場合は、「花粉アシスト!」というれっきとした栄養機能食品とセットで緑茶を販売するという、つい感心 (笑) してしまうような手法である。

Google 検索において、このようなキーワードに連動した広告リンクを表示する機能を、Google AdWords (グーグル アドワーズ) と呼ぶ。Google AdSense と同様に、あらかじめ広告主がキーワードを指定し、オークションで決定した登録料を Google に支払っている。そして、偶然の要素を否定できない Google AdSense と違って、Google AdWords は100%意図を持った表示である。つまり、サントリーなどビール系飲料メーカー3社には、「花粉」というキーワードから自社サイトへ「顧客を誘引する意図が明確にある」ということになる。そして、Google AdWords においてその意図を確認できれば、Google AdSense における偶然の要素は否定される。「花粉」というキーワードが Web ページにあれば Google AdSense が自動的に広告リンクを表示することを、サントリーは明確に意図しているわけである。

ちなみに、「不妊」をキーワードにして検索してみると、「サントリーのマカ」が現れる。そんなばかな (笑)。どうも複数の商品で常態化しているようだ。

広告主、Google、Google AdSense を導入する Web サイト、それぞれにどのような責任があるのだろうか?キーワードの指定に関しては広告主の責任だし、Google にも広告代理店としてそれをチェックする責任があるだろう。では、Google AdSense を導入する Web サイトは?自社の広告では言えない事柄を、表現の自由が許される Google AdSense 付きマスメディアを利用して PR している場合は?・・・すでに長文になってしまったので、ひとまずこれくらいにしておく。

最後に、この下に表示されるであろう Google AdSense について、どんな広告リンクが表示されるのか、私には管理不能であることを念のため繰り返しておく。

追記

Google AdSense に関して、カテゴリー「広告」にその後の記事あり。

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