JAROに問い合わせてみて分かったこと
JARO(社団法人日本広告審査機構)と聞いて思い浮かべるのは、やはり、厳格なイメージであろう。どこかで広告を監視し、不適切な広告を見つけたら警告し、場合によっては当局に通報する、そんなパブリックイメージがあると思う。
しかし、JAROのWebページをよく読んでみると、そのイメージとはいささか異なることに気づく。「JAROとは」には、「消費者からの苦情や問い合わせをもとに、JAROは公平なスタンスで広告を審査し、問題のある場合は広告主へ広告の改善を促しています。」と書かれている。苦情や問い合わせがないと動かないの?広告主へ広告の改善を促すだけで終わりなの?
以前から気になっていた広告について、昨年(2007年)7月、試しに電話で問い合わせてみた。いつかブログに書こうと思いつつ放置していた会話記録のメモを、以下記す。(電話終了後にメモしたため、実際の会話とは若干表現が異なっている。)
JARO「はい、ジャロです。(ゆっくりした口調の低い声。40~50歳代の男性か。「ジャロ」というより「ジヤロ」という感じの発音。その声でその発音は少々ビビったが、もちろんご本人には何も非はない。)」
私「インターネット上の記事広告について問い合わせたくてお電話したのですが」
JARO「はい、どのような商品の広告ですか?」
私「健康食品の広告です。」
JARO「どちらのページですか?」
私「日経BPの『闘う男の健康食品講座』というページです。」
JARO「URL をおっしゃっていただきますか?」
私「エイチティティピーコロンスラッシュスラッシュ、(中略)、さぷる、エスユーピーピーエルイー・・・あ、サンプルではなく、さぷるです、エスユーピーピーエルイー。最後にスラッシュ、です。」
JARO「はい。・・・あ、出ましたね・・・。(独り言っぽく)これは記事広告なのかな?・・・」
私「連載記事になってますけど、その一つ一つが、健康食品の効果・効能をあれこれ書いてまして、3、4ページあって、その最後にサントリーの販売サイトへのリンクを張っている、そういう形態になってます。」
JARO「たとえば第23回『脳のアンチエイジング成分を求めて・・・』を見てみましょうか・・・」
私「はい」
JARO「・・・ああ、この、セサミンとか・・・ゴマペプ茶とかのリンクですね。」
私「はい、そうですそうです」
JARO「これは確かに・・・この場合ですと、健康増進法という法律がありまして、記事から販売ページへのリンクがあると、広告と見なされることになります。ですので、リンクを削除するといった対応が必要となります。」
私「なるほど、はい。(健康増進法よりも薬事法のほうが優先度が高いのでは?とは思いつつ、広告リンクについての注意点はご存じだったようで一応安堵)」
JARO「JAROから先方に、そのような問題があるということはお伝えします。そうした問題があるということを知らずにやっている場合も考えられますし、そうした場合には対応してくれると思います。」
私「ぜひお願いします。」
JARO「ただ、23回も連載していますし、(法的な問題があることを) 知っていて (意図的に) やっているということも考えられますので・・・。」
私「はい・・・ (まあ、実際そうなんだけど。これについては後述)」
JARO「そうなると、保健所にお問い合わせいただいた方が確実かもしれませんねえ。」
私「保健所、ですか?」
JARO「はい、健康増進法については、保健所が管轄しているんですよ。」
私「(東京都の関係当局のほうが話が早いのでは?と、この時点では思っていた。後で知ったのだが、保健所も都道府県や政令指定都市の所轄である。) ああ、そうなんですか、なるほど。」
JARO「それから、JAROはあくまで自主的に広告業界が襟を正す組織ですので、問題を先方に伝えるということはしますが、それ以上のことはいたしかねるということはご理解いただきたいのですが。」
私「なるほど、それは理解しています (もとよりそれは理解していた)。・・・ただ、たしか日経BPってJAROの会員企業ですよね?」
JARO「ええ、たしかそのはずですし、こちらからの連絡を受け付ける窓口はあるはずですが、それ以上のことは、ということで・・・」
私「なるほど。」
JARO「もう金曜の午後ですので、来週の早々にでも先方に連絡します。その上で、ホームページの更新の手間もあるでしょうから、2週間ほど経ってから確認してみて、それでも修正されないようなら、保健所のほうに連絡していただけませんでしょうか?」
私「そちら (JARO) のほうから保健所には連絡していただけないのでしょうか?」
JARO「ええ、私ども (JARO) からは、行政当局などに連絡するというようなことは基本的に行っておりません。先ほど申しましたように、自主的に改善していくという趣旨の組織ですので・・・」
私「なるほど、そうしますと、私としては、先ほどおっしゃったように、2週間ほど様子を見て、修正されていないようなら、保健所のような関係当局に連絡すると良いということですね?」
JARO「はい、そのようにお願いします。(締めくくりとして、しっかりした口調で) 情報の提供、ありがとうございました。」
私「いえいえ。ではよろしくお願いします。」
この件については、すでに昨年の2月に、まず日経BP自身、次に東京都福祉保健局健康安全室へ、実名のメールで伝えていた。日経BPからは無反応であった。メールの直後に私のサイトへ日経BPとサントリーからアクセスしてきた記録はあるので、読んだ上で無視したことが伺える。やはり一個人ではなかなか相手にされない。東京都福祉保健局健康安全室からは、薬事監視課に情報提供を行ったとの返事を頂いたが、その後当該サイトに変化はなかった。東京都の当局や保健所もいろいろ忙しい(たとえば昨今の中国製ギョーザ問題とか)だろうし、他の違法なあれやこれやに比べれば当該広告の違法性は軽微なほうだろうから、そこまで手が回らないだろうことは想像がつく。なので、東京都の当局について悪くは思っていない。
なお、JAROへの電話連絡の直後、当該の連載サイトは最終回を迎えていた。しかし、過去の記事が修正されているわけではないし、最終回の記事の最後には相変わらずサントリーの広告リンクを掲載している。JAROへの電話問い合わせはブログのネタにしかならず、無駄だったようだ。
JAROの趣旨と、世間一般のイメージとの乖離(かいり)は、もっと認識されるべきだろう。残念ながら、JAROの会員企業にさえさしたる指導力を発揮できない、そういう民間の広告自主規制機関である。広告の苦情や問い合わせの窓口として、JAROはあまり適切な選択肢ではないだろう。エキサイトニュースのJARO紹介記事では、「活動内容は、その社名の通り、様々な広告を審査し「嘘・大げさ・まぎらわしい」広告に対して指導を行うことだそうです。あくまで行政機関ではないので強制は出来ないそうですが、このような活動のおかげで宣伝・広告の不正が防がれているのです。」としているが、これは過大評価である。
一方、行政当局に連絡するにしても、どこに連絡すればいいのか、何とも分かりづらい状況である。最近になって、消費者行政を一元化する「消費者庁」構想が唱えられている。広告の不正を防ぐ観点からも、ぜひ実現して欲しいと願う。
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