« 2007年10月 | メイン | 2008年1月 »

2007年11月17日

地デジのB-CASカードを譲り受けて使用する行為についての一考察

地上デジタル放送等の受信機や録画機に必ず付属しているB-CASカードは、その契約上、B-CAS社が所有権を保持しているとされ、家族以外の他人に貸与または譲渡してはいけないことになっている。主な理由は、コピーコントロール等の対策が施されていない受信機(無反応機)等への転用を防ぐためである(B-CAS社は明言していないが)。他人への譲渡等は、単に契約違反というだけでなく、著作権法違反や不正競争防止法違反となる可能性もある。著作権法では、公衆に譲渡した場合等については刑事罰も設けられている(第120条の2第1項)。

では、個人的に放送を視聴、録画することを目的として、B-CASカードを譲り受け、不正な受信録画機を使用する行為についてはどうなのかということについて、AV機器評論家でMIAUの中心メンバーでもある小寺信良さんのブログでは以下のように言及されている。

おそらく販売者に対して放送事業者からなんらかの訴訟が行なわれるとは思うが、ちょっと心配なのは、購入者も著作権侵害で訴訟の対象になるのではないかという懸念である。著作権法30条2項に、私的使用のための複製の例外事項がある。

「二 技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去 又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害 を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、 その事実を知りながら行う場合」

フリーオの購入者がこれにあたるのではないかという見方は、もしかしたらできるかもしれない。個人的には消費者が違法者として告訴されることは遺憾であるが、現時点では危ない橋を渡る者は、それ相応の覚悟がなければならない。

(小寺信良. "B-CASの問題点が早くも浮上 - コデラノブログ 3". 2007年11月8日.
下線強調は引用者による)

その条項は、30条2項ではなく、30条1項2号である。重箱の隅をつついているように思うかもしれないが、1項と2項とでは全然話が違ってくる。

著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第三項の規定により著作権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第五項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第四号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

(著作権法第119条第1項)

つまり、私的使用の複製である限り、30条1項に違反しても、刑事罰は科せられない。よって、小寺さんの言うような事由によって利用者が告訴されることはない。これは、ダウンロード違法化案(先日の記事を参照)が刑事罰の対象外となっているのと同じ話である。

ただし民事上は、フリーオは受信と同時にHDD(ハードディスクドライブ)にコピー無制限状態で録画するようであるから、フリーオの使用中止、廃棄やB-CASカードの返却などの差止請求(著作権法第112条)には応じなければならないと思う。ただし、地上デジタル放送の受信は(NHK 受信料を除いて)無料であるし、HDDは私的録音録画補償金制度の対象外だから、私的使用の範囲である限り、著作物に関する損害賠償は請求できないと思う(この点はダウンロード違法化とは違う)。

では、録画機能のない不正受信機が今後登場したとしよう。それを用いて単に放送を視聴するだけならば、技術的保護手段の回避にも当たらず、法律違反にもならないように見える。

現行制度上、技術的な保護技術については、著作権法と不正競争防止法により立法的措置がなされている。

 著作権法では、著作権等を侵害する行為の防止又は抑止をする手段として技術的保護手段が規定されている(第2条第1項第20号)。また、私的使用を目的とする複製であっても、技術的保護手段の回避により可能となった複製を行うことは権利制限の例外とされる(第30条第1項第2号)。さらに、技術的保護手段の回避のための専用機能を有する装置・プログラムを公衆に譲渡等を行い、又は、公衆の求めに応じて業として技術的保護手段の回避を行った場合には、刑事罰が科せられる(第120条の2)。

 したがって、現行著作権法では、コンテンツの無断複製を技術的に防ぐ手段(コピーコントロール)は技術的保護手段の対象となるが、放送のスクランブルなどコンテンツを暗号化し視聴を制限する手段(アクセスコントロール)は、視聴行為そのものはコンテンツの権利者に無断で行われたとしても「著作権等を侵害する行為」ではないので、技術的保護手段の対象外であると解されている。

 一方、不正競争防止法では、「営業上用いられている技術的制限手段」の効果を妨げる機能を有する専用装置・プログラムの譲渡等を「不正競争」と規定し (第2条第1項第10号、第11号)、同行為に対する差止請求や損害賠償請求など民事的救済を定めている(第3条、第4条)。
 不正競争防止法では、アクセスコントロール、コピーコントロールのいずれも「技術的制限手段」の対象となる。なお、この「不正競争」については、民事的救済は可能であるが、刑事罰の適用はない。

(文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会(第6回)議事録[資料2], 2005年7月28日)

つまり、著作権法では、複製とそれを防ぐコピーコントロールについては述べているものの、単に放送等を視聴する行為は著作権侵害には当たらず、視聴を制限するアクセスコントロールは技術的「保護」手段の対象外となる(ただしHDDレコーダなどに録画してしまったらアウトだが)。また、アクセスコントロールについては、不正競争防止法第2条第1項第10号、第11号に技術的「制限」手段についての条項があるのだが、こちらはあくまで手段を譲渡等する側を(刑事罰は設けずに)規制するものであって、私的使用する側には適用されない。

ダウンロード違法化の議論において文化庁が、YouTubeなどを念頭に「視聴のみを目的とするストリーミング配信サービス(例 投稿動画視聴サービス)については、一般にダウンロードを伴わないので検討の対象外である」という見解を示した背景も、このあたりにあるのだろう。複製を伴わず、単に視聴するだけであれば、それを取り締まる法律は存在しないことになる。

ただし、冒頭でも述べたように、契約上、B-CASカードはあくまでB-CAS社が所有権を保持しているとされ、それを他人に貸与、譲渡するのは禁止されている。そのB-CAS社との契約というのは、パッケージ開封時に自動的に成立するというシュリンクラップ契約である。そして、購入者から譲り受けた人とB-CAS社との間には、直接の契約関係は存在しない。

では、誰かから譲り受けたB-CASカードは、複製を伴わない視聴のみの私的使用でも、B-CAS社から求められれば返却しなければならないのだろうか?契約問題を知っていて譲り受ければ、悪意の占有者(民法第190条)となってしまい、返さないといけない?あるいは、購入者にろくに説明していないシュリンクラップ契約はそもそも無効だと主張する?

・・・素人なりにいろいろ調べてみたが、この辺が限界である。なお、B-CASカードを譲渡するのが契約違反だとは知らなかった(善意の占有者)と言い張れば、即時取得(民法第192条)となり、譲り受けた人は返却しなくてもよいかもしれない。ただし、このブログ記事をここまで読み進んでしまった方には使えない言い訳となる(苦笑)。

そのうち、多くのユーザが機器を買い換える(中古品が広く出回る)時期が訪れる。B-CAS社は「B-CASカスタマーセンターにご連絡いただきB-CASカードの返却をお願い致します」などと言っているが、消費者の混乱が容易に予想される。そもそも、コピーコントロールを意図したこのような仕組みを無料のデジタル放送に導入しているのは日本だけである。コピーワンスや「ダビング10」の件もそうだし、後先のことを考えていない地デジの受信機や録画機はしばらく買い控えるのが賢明だと、最後に一応付言しておく。

2007年11月11日

「ダウンロード違法化」について文化庁にパブコメしてみた

著作権について最近、著作権を侵害している違法サイトからのダウンロード行為を、私的使用のための複製 (著作権法第30条) の適用除外とする (違法とする) ことについて、様々な議論が展開されている。

その震源地である、文化庁の文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会の中間整理では、「第30条の適用を除外することが適当であるとする意見が大勢であった」と総括されている。そして、その中間整理について、先月から文化庁がパブリックコメント (意見公募手続) を実施している。パブコメ提出の締切は4日後 (2007年11月15日) である。

思うところがあって、以下のような短いパブコメを個人として提出してみた。

(1.~4. は、個人/団体の別、氏名、住所、連絡先を記載)

5. 該当ページおよび項目名:
104ページの「違法録音録画物、違法サイトからの私的録音録画」について

6. 意見:
ダウンロードの違法化は、権利者による損害賠償の二重取りを可能にしてしまう問題がある。現状でも、公衆送信した者に対しては、送受信の数量と著作物の販売額に応じた損害賠償請求が可能である(著作権法114条1項)。もしもダウンロードも違法化すれば、個々のダウンロードした者に対しても、著作物の販売額以上の損害賠償請求が可能となる(114条3項、4項)。権利行使の困難さについての議論以前の問題として、そもそもこのような立法は権利の過保護ではないか。

なお、ファイルローグ事件判決の記事 (Internet Watch) をあらためて確認すると、「販売額」は「使用料」としたほうが正確だったかもしれない (意見の主旨には影響しないが)。

以下、パブコメしてみた背景などについて述べる。

先の小委員会の中間整理においては、ダウンロード違法化は「情を知って」(違法録音録画物や違法サイトと承知の上で) 行う場合に限定されており、また、刑事罰は設けないとされている。利用者保護の観点からそうしているとのことである。

そうだとしてもダウンロード違法化には反対だという声がネット上では目立つ。しかし、先の小委員会では、IT・音楽ジャーナリストの津田大介さんが一人だけ反対論を唱えていた。中間整理には (少数意見として)、「違法対策としては、海賊版の作成や著作物等の送信可能化又は自動公衆送信の違法性を追求すれば十分であり、適法・違法の区別も難しい多様な情報が流通しているインターネットの状況を考えれば、ダウンロードまで違法とするのは行き過ぎであり、インターネット利用を萎縮させる懸念もあるなど、利用者保護の観点から反対だという意見があった。」と記載されている。また、ITMedia の記事「津田大介さんに聞く(前編):「ダウンロード違法化」のなぜ ユーザーへの影響は」「津田大介さんに聞く(後編):「ダウンロード違法」の動き、反対の声を届けるには」では、主張の詳細説明と同時に、パブリックコメントの重要性を津田さんは呼びかけていた。

こうした議論をきっかけに、ネット利用者の意見を集約して提言するための任意団体として、MIAU (Movements for Internet Active Users: インターネット先進ユーザーの会) が津田さんらを中心メンバーとして先月に設立されていた。そのMIAU によるパブコメ最終案に、おおよそ反対論は集約されている。MIAU はパブコメの概要を自動的に作成するプログラムまで公開しており、一般のネット利用者にもパブコメの提出を呼びかけている。

なので、反対論が出尽くしているようならば、いまさら無名の私ごときが何かを言うまでもないと思っていた。パブコメの自動作成プログラムなんぞ、同じ意見の焼き増しに過ぎず、多数決的な局面では意味があるかもしれないが、私は使う気になれない。だいたい、パブコメなんて今まで一度も出したことがない。今のところは MIAU とかに参加するつもりもない (興味はゼロではないが様子見、といったところ)。

ただし、その MIAU のパブコメ最終案を含め、ネット上の意見をいろいろ検索、閲覧してみても、損害賠償の二重取りの問題についてはほとんど誰も言及していない。スラッシュドットジャパンにおける IZUMI162i6 さんという方の書き込みを辛うじて見つけたくらいである。

著作権法第114条 (損害の額の推定等)には、すでに第1項で、違法な公衆送信におけるダウンロードの数量を元にした損害額の推定方法が規定されている。違法サイトの運営者等に損害賠償請求する際には、そうした推定が適用可能である。そのうえさらに、個々のダウンロードした者にも損害賠償請求を可能にするのは、権利の過保護ではないか。

懲罰的損害賠償として考えるなら、二重取りは問題ではないかもしれない。しかし、日本の法体系では、本来の損害額を超える損害賠償請求は認めないことになっている (はず)。文化審議会著作権分科会の別の小委員会 (司法救済制度小委員会) でも、懲罰的損害賠償について議論はしたが見送った模様である。

現状ではダウンロードした者の特定や「情を知って」の立証が難しいという主張もあるだろう。そうした主張は、「だから無益だ」という導出とともに、反対論からも聞こえてくる。しかし、将来にわたってずっとそうであるとも限らない。立法として、そうした権利行使の困難性を前提として二重取りの余地を残してしまうのはおかしいと思う。

・・・というようなことを、ほとんど誰も言及していない。私の考えがズレているのだろうか?正直言って、素人の私には分からない。でも、とりあえず言ってみることにした。そういう次第である。

最近の記事

最近のトラックバック

Powered by Blogzine[ブログ人]
ブログ人登録 2008年03月15日