JAL株主優待券で私は得をしたのか?
この正月は二日ほどだけ、主に中学の同窓会に出席する目的で東京から徳島に帰省する。今回は片道だけ飛行機の予約を取った。その際に、JAL (日本航空) の株主優待券なるものを初めて金券ショップで1枚購入した。
なぜ今回が初めてかというと、最近の航空運賃の上昇に加えて、以下の報道を目にしたからだった。
東京、大阪の金券ショップで大手航空会社の株主優待券が暴落している。大阪では、1年前に9000~1万2000円だった日本航空の優待券が3000円台に急落。東京都内でも5000~6000円の安値だ。年末年始の最需要期の値崩れは異例。背景には、日航が7月に実施した大型増資があるようだ。
優待券は1枚で、国内の片道航空券を普通運賃の半額で購入できる。金券ショップで日航の優待券を3300円で買えば、東京―大阪便は通常料金2万2100円のところ、片道1万4550円(1月8日までの繁忙期料金)で乗れる。7550円得する計算だ。
日航の優待券が値崩れを始めたのは12月に入ってから。日航が約1470億円の大型増資を実施したため、大量の優待券が11月下旬から新たな株主に配布され、需給バランスが崩れた。グループ事業会社統合の記念優待券も同時に発行され「発行枚数は前年同期の約1.4倍に増えた」(日航)という。
朝日新聞(asahi.com), 「航空優待券暴落、金券ショップで半額に 日航増資影響か」, 2006年12月28日 より引用
東京-徳島便 (この区間は現在JALのみの運行で、スカイマークは今年4月に撤退してしまった) で計算してみる。片道の普通運賃は28600円 (1月8日までの繁忙期料金、羽田空港の旅客施設使用料100円を含む) で、半額なら14350円となる。今回は利用予定が間際だったので、近くにある少々割高な大手チェーン店 (大黒屋の池袋店) にて株主優待券を6000円で購入したものの、それでも総計20350円となり、8250円も得する計算となる。さらに、Yahoo!オークションで「JAL 株主優待」をキーワードにして検索してみると、だいたい大阪と同じ3000円台が相場であることが分かる。東京に在住していても、東京-徳島の片道費用を10000円以上節約できそうである。(この段落2007年1月3日修正: 羽田空港の旅客施設使用料は割引の対象外でした)
私が大学に入学し上京した頃は、この区間の普通運賃は21000円程度だった (当時は日本エアシステム (JAS))。その後、全日空 (ANA) の参入・撤退、スカイマークの参入・撤退などがあったなか、普通運賃はじりじりと値上がりした。早割や特定便割引などを航空会社はアピールしているが、予約の時期や販売座席数には限りがある (たしか以前に公正取引委員会から注意されたこともあるはず)。なにより正月などの繁忙期にはそんな割引は存在せず、むしろ「ピーク期」として割増となる。さらに、2007年4月から、また値上げするとのことである。東京-徳島便は600円値上がりし、繁忙期は 29200円 (羽田空港の旅客施設使用料100円を含む) となるそうだ。
そこへきて、今回のJAL株主優待券の価格急落である。以前は東京-徳島便で株主優待券を買ってもさほどのうまみはなかったが、今は違う。しかも、株主優待券による航空券の購入は、前払いではなく、搭乗時に空港で行える。むしろ空港で支払うのが一般的なはずで、2005年7月から自動チェックイン・発券機で株主優待券が利用可能になったことを、「お客さまの声を形にしました」としてJALはアピールしている。予約を変更する自由まで考慮すれば、これはもう、繁忙期以外でも迷わず金券ショップで株主優待券を買い求めたほうが良さそうな情勢である。
なお、株主優待券の販売価格だけでなく、買取価格も当然急落しているようだ。金券ショップの買取価格表やブログ記事によると、以前は4000~5000円程度だった買取価格が、今では2000円前後になっているようである (こうした状況は ANA でも同様らしく、販売価格、買取価格とも JAL につられて「連れ安」状態なのだそうだ)。Tom さんという方のブログ記事 からもうかがえるように、まとめて何枚か売却する株主は、報道される前から価格の下落を認識し、金券ショップごとの価格差に敏感になっているようである。
前掲の記事にあるように、今年7月のJALの大型増資によって11月に株主優待券が大量発行されたのが原因らしい。その増資と言えば、株主総会のわずか二日後に発表したという、あの増資である。それについてはあちこちで論評されているのでここでは詳しく書かないが、おさらいとして、増資の直後に亡くなった社外監査役の故・西村正雄さんのインタビュー記事 (日経ビジネス オンライン) が参考になるのでリンクを張って紹介しておく。
さて、株価のみならず株主優待券の価格も下落して、既存のJAL株主が損をしたのは誰の目にも明らかである。薄利となってしまった金券ショップも損をしただろう。一方で、増資後の新規の株主のうち、株主優待券を目当てにしている人は、安値で株を購入できて、得をしているのかもしれない。
JALはどうだろうか。経営が苦しいからこそ値上げをしているところへきて、株主優待券による半額の利用者が急増する。株主優待券の発行基準によると、小口の株主ならおよそ1000株につき年間1枚、大口ならおよそ2000株につき年間1枚とのことである。先の増資の規模は7億株 (約1470億円) であるから、株主優待券はおよそ年間35万~70万枚増加したことになる。控えめな仮定として、1枚あたり東京-大阪便と同程度の割引 (約11000円分) が適用されたとすると、およそ年間40億~80億円ほど運賃収入が減少する。増資によって得られた資金を、早ければ20年足らずで使い切ることになる。たいした問題でなければいいのだが。
では利用者 (たとえば私) にとってはどうなのだろうか?一見得をしたようであるが、スカイマークが撤退し、そのうえ元々の運賃の値上げが続いているなかでのことであるから、割引いて考える必要がある。しかしそれより大事なのは、やはり、JALの経営悪化によって安全対策が後退する危険性だろう。少々の節約なんぞより、命あっての物種である。とんでもない損をそのうち掴まされるのではないか?そんな考えを巡らせながら、私は明日の2007年元旦、羽田空港の搭乗口に向かう。頼むから墜落しないでくれ (苦笑)。少々物騒な締めくくりだが、皆さんよいお年を。
コメント